第41話

「先輩、私、今日が誕生日なんです」

「お願いがあります」

 部屋に入るなり、そんなことを言う。天寧が自己主張するなんて珍しい。

 さっき知ったばかりで何も用意出来ていないけど、私に出来ることなら何でもしてあげるつもりでいた。


 意表をつかれた。

 私が喋っている途中だった。

 突然、キスをされた。

 驚きすぎて、体が動かなかった。


「先輩に触れたいんです」

 そう言って、押し倒された。

 え、ちょっと待って……

 待ってはくれなかった。

 ぎこちない手つきだけど、触れられる場所からの熱量が凄い。

「先輩、好きですーー大好きなんです、先輩ーー」

 何度も何度も囁かれ、私はーー



「今日は先にシャワー浴びてもいい?」

 いつもとは逆だった。

 火照った体と気持ちを鎮めようと、やや温めのシャワーで汗を流す。


 良かった、私と同じように好きでいてくれて。さっきまでモヤモヤしていたからとにかくホッとした。

 それにしても、天寧があんなに情熱的だったなんて。普段とのギャップが激しくて、思い出すとまた身体が疼きそうで、私は頭からシャワーを浴びた。


 交代でシャワーを済ませた天寧は「ごめんなさい」と謝ってきた。何のことかと思ったら「強引だったから」と言う。

 確かに、同意する前に押し倒されたし、あんなこと初めてだったから驚いたけど。嫌ではなかったし、むしろ嬉しかったし。


「それで、返事を頂きたくて」

 え、返事って? 意味がわからなくて聞いた。

「さっき口走ってしまったこと、本気です。私は先輩のことを本気で好きになってしまって……それで先輩はどう思ってるのかなって」

 あ……え?

 私が天寧を好きなこと、伝わってない? 言ってなかったっけ。それでそんなに不安そうな顔をしてるの?

 いくら私でも、好きじゃなきゃ押し倒したりしないのに。


「それって好きってことですか?」

 そうだけどーー

「私たち付き合ってるってことになる……のか」

 私はそう思ってたーー


 天音は床に座り込んでしまった。

「大丈夫?」

「安心したら、なんか腰が抜けちゃって」

「なら、今日は泊まっていく?」

「いいんですか?」

「いいよ、誕生日だしね」


 ころころと変わる表情は、ずっと見ていても飽きない。

「おもしろいかーー表情ね」

「今、面白い顔って言いました?」

「言ってないわよ、ふっ、それより立てる?」

 天寧といると、この私も自然に笑みがこぼれる。


 立ち上がったところを抱きしめた。

 私が「好き」を言わなかったせいで、ずっと不安にさせていたのかもしれない。ちゃんと言葉で伝えるべきなのはわかってる。だけど面と向かうとやっぱり気恥ずかしい。

 照れずに伝えられる方法があればいいのに。


 そういえば。

「私、甘いもの好きって言ったよね」

「ん? うーん、言ってた気がしますけど」

 ほら、バレンタインの時に言ったよね。

「私はチョコと同類ですか?」

「ううん、チョコより上よ」

「それは、喜んで良いんでしょうか」

「大好きってことだけど?」

 どうやら、伝わったみたい。


 私は真っ赤な顔の天寧にキスをした。

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