甘いものが好きで何が悪い

第40話

 天寧の涙が気になりつつも深く追求することはしなかった。出来なかったと言った方がいいかもしれない。

 それでも、泣いたのはあれ一度きりだったし、その後はいつも通り笑顔で接してくれていたし。


 今日も、仲良し三人組でお喋りしている姿を少し離れて盗み見ていた。

 基本は聞き役のようで、相手の言葉に素直に反応してコロコロ変わる表情を。

 会話もところどころ聞こえてくる。

 え、今日が誕生日?

 誕生日は好きな人と?


 知らなかったな、誕生日なんて。

 よく考えたら、天寧のこと何も知らないかも……普段何をしてるのか誰と過ごしてるのか。

 今になって、あの涙がまた気になってきた。もしかしたら今日は誰かと過ごすの?

 そういえば、天寧に「好き」と言われた事はない。キスだって、いつも私からするばかりだし。誘えば応じてくれるけど、それは押しに弱いだけ?


 帰り道一緒に歩いても、バスで隣に座っても聞けなかった。答えを聞くのが怖かった。自分がこんなに弱い人間だったなんて知らなかった。

「今日はいいよ」「好きな人と過ごして」

 狡い言い方をしたと思う。

 もしも、一緒にバスを降りてくれたならーー降りて欲しい。


「いいって言ったのに」

 降りてくれて嬉しいくせに、そんなふうにしか言えない天の邪鬼な性格は昔からだ。

「迷惑ですか?」

「そんなことないけど」


「好きな人なんていませんから」

 え、そう……なの。

 その言葉に喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

 今日という日を他の誰かと過ごさず、一緒に私の家へ向かっているのだから嬉しいはずなのに。

 私のことは好きではないの?

 確かに一時期悩んでる感じはあったけど、私に向けてくれる笑顔や言葉、バレンタインには手作りのお菓子だってくれたじゃない。それはただ仲の良い先輩だから? わからない。人と深く付き合ってこなかった私には、他人の気持ちなんてわかるはずもない。


「なんで怒ってるんですか?」

「機嫌悪そうですよ?」

 言葉を発しない私に絡んでくるが、なんで嬉しそうなの?


「なぁに?」

「何でもないです」

 少しだけイラついた。

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