変わりはじめた自分に、戸惑いながらも嫌いじゃない
第33話
「先輩」
バスから降りてきた天寧は、嬉しそうに小走りで近づいてくる。
「迎えに来てくれたんですか?」
「雨が降りそうだったからね。天寧、傘は?」
「これくらい大丈夫ですよ」
先ほどから降り始めた雨は確かに弱かったけど。
「先輩の傘に入れてもらうし」
だめですか? なんて首を傾げている。
「いいよ」
そう言って二人で歩き始めた。
元々、私もそのつもりだったのだから。
「でもこの傘、元々は天寧のだよ?」
「え、あぁ。いいですよ、先輩に使って欲しいってこの傘も思ってると思うから」
相変わらず嬉しそうな天寧の横顔が見える。
もしかしたら、あの時の事を思い出してるのかな?
結局この傘は、今も私の鞄の中に収まっている。
「何よ、それ……」
少しくすぐったくなる。
※※※
週に一度のサークル活動の日、時間通りに行くと1年の女子三人が集まってお喋りをしていた。その中に彼女もいたーー佐藤天寧ーー私の恋人。
初めての時はガチガチに緊張していたようだった。私の方も女の子を抱くのは初めてだったから戸惑いもあったけど、抱きしめると柔らかくて温かいから、自然に触れることが出来た。相手を気持ち良くさせるというよりは、自分の欲望のまま触れていた気がする。こんなにセックスが心地良いものだって思ったのは初めてかもしれない。
「もしかして、初めてだった?」
彼女の振る舞いで、そう思ったのだけど。
「そ、そんな訳ないじゃないですか」
と、否定されザラリとした感情が芽生えた。
私は彼女を満足させられたのだろうかと心配にもなった。
それでも、次の週にも同じように来てくれて愛し合って、私たちの関係は続いている。ただ、最近の彼女はどこか表情が固くて、何か悩みでもあるのではと気になっていた。
今も、お友達と一緒にいるのにぼんやりしている。
側を通る時に顔を見ると、やはり落ち込んでいるように見えて思わず声をかけた。
「またボーッとしてる?」
私の声に反応して見上げた表情に、あぁやってしまったかと思い、すぐに離れた。
あれはきっと、私との関係を知られたくない顔だ。
私には良くない噂があるらしい、今までは別に何を言われても気にしていなかったけれど、彼女を巻き込みたくはない。
「ねぇ、氷室先輩と仲良いの? 声かけられるなんて」
「へ、そんなことないよ。たまたまじゃない?」
友達との会話が聞こえてくる。
そうそれでいい、私とは正反対の愛されキャラなのだから。
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