だって欲しいと思っちゃったんだもん

第30話

『ちゃんと美味しかったよ』

 写真も添付してメッセージを送り、自分で焼いたことを自慢した。それと、今日はありがとうと、お礼も書き添えて。

 姉から、びっくりした猿のスタンプが送られてきたのは、ベッドに入って寝ようとしていた時だった。余程驚いたのか、そのすぐ後に電話がかかってきた。

「凄いじゃない、ちゃんとパンケーキに見えるし」なんて言うから、ふっ、と笑ってしまった。

「まさか、一人で焼いたわけじゃないわよね?」

「まぁ、教えてもらいながら……ね」

「そう……それは良かった、今回は大丈夫そうな気がするよ」

「え、何がよ」

「あんたの恋愛の話よ、今までは長続きしなかったでしょ? 今回はきっとうまくいく」

「予言者なの?」

「お姉ちゃんですが何か」



 私は中学を卒業後、居心地の良かった田舎街を出て都会の高校へと進学した。

 祖父は寂しがったが、ずっと甘えているばかりではいけないと思ったし、早く自立したかったから。

 進学校だったので、あまり他人に干渉する子は少なくて、過ごしやすかった。

 二年に進級した頃からポツリポツリと告白をされるようになった。ずっと断り続けていた。「好きだ」とか「付き合って欲しい」と言われても、話したこともないよく知らない人だったから。

 ある時、いつものように「あなたの事よく知らないから付き合えない」と言ったのに、その人は「だからだよ」と答えた。

「よく知らないから、知るために付き合うんだよ」と。

 納得した、なるほどなぁと思ってしまった。そして私は初めて、付き合い始めた。

 今、思い出そうとしても、ほとんど顔も覚えていないその人とは三ヶ月でお別れをした。会ったのは数回だと思う。

「やっぱり合わないね」と、その人は言った。私もすんなり受け入れた。

 それからの私は、告白される度にyesと返事をしお付き合いを始めた。時には求められるまま受け入れ、そして別れを繰り返した。

 別れ際は、綺麗なものだ。多少の寂しさはあっても揉めることもなくサヨナラした。

「あんた、もう少し選んだら? 誰でも彼でも受け入れてたら傷つくのは自分だよ」

 当時、姉に言われた。

 私は傷ついているのだろうか、よくわからなかった。選ぶ基準もわからない。

「なんかこう、ピンとくる人はいないの?」

 いない……


 来るもの拒まず去るもの追わず。


 それが私だった。


 天寧に会うまでは。



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