第29話
「先輩、おかえりなさい」
家へやってきた彼女は満面の笑みだった。
「ただいま」
家で迎える私が「ただいま」とは? 逆のような気がするが、彼女は全く気にしていないらしい。
「ねぇお腹空いてる? お土産買ってきたの」
なになに? と嬉しそうに袋を覗き込む。ふわっと香る彼女の匂い。
「パンケーキ?」
「うん、美味しかったから。天寧、食べる?」
じっと見つめられた。
「先輩が焼くの?」
「やっぱり難しいと思う? 料理もろくに出来ないのにスィーツなんて無謀なーー」
「食べたい!」
「えっ」
「先輩が焼いたパンケーキ、絶対美味しいから」
なんでそんなに自信満々なのだろう?
「あとね、先輩が食べる分は私が焼きたい」
いい? 真っ直ぐ見つめられた瞳はキラキラ輝いていて。
あぁ、こういうところかと納得した。
彼女は慎重にナイフとフォークを使って一口大に切り分けた。私は、お気に入りのシロップをかけてあげた。
モグモグと咀嚼して、そして飲み込む。一呼吸の後、美味しいと目を細めた。
「ほんとに? 無理してない?」
「何言ってるんですか、先輩も私が作ったの食べてくださいよ」
「うん、もちろん」
天寧が焼いたパンケーキはもちろん美味しい。
「お店で食べたのとどっちが美味しいですか?」
「こっち」
「でしょ! 焼きたてですからね。あと隠し味も効いてますね」
ふふっと笑いながら、パクパクと食べすすめている。
「何入れたの?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
フォークに刺したパンケーキを差し出して、あーん! ってするから、私が焼いたものを食べてみた。
見た目はイマイチだけど、味は美味しい。
「愛情が入ってるから美味しいんです」
だから、そういうところ。
真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくる、自信満々でキラキラしている。私にはないものを持っているから輝いてみえる。
「天寧」
「なんですか?」
「……このシロップ、甘過ぎない?」
「大好きですよ」
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