第28話

「紅茶、お代わりする?」

 姉の声で我にかえる。

「あ、うん。お願い」


「あの時は心配したんだよ」

「え?」

 いつもはガサツなくせに、ふいに優し気な声で驚いた。

「栞菜が不登校になるんじゃないかって」

「あれは……ちょっと風邪が長引いただけで」

「そうだね、心が風邪ひいたのかもね。あ~でも、私もおじいちゃん家で暮らしたかったなぁ、栞菜楽しそうだったし」

「うん。おじいちゃんも、祐菜にも会いたいって言ってたよ」

「せっかく猛勉強して入った高校だったからさぁ、転校出来なかったんだよね」


 あの街は、こんな私にも優しかった。

 ゆっくり流れる時間のせいか、大人も子供も大らかな雰囲気をまとっていた。

 素朴な、裏表がない子が多かったように思う。


「よし、今度一緒におじいちゃんに会いに行こう、そうしよう」

 それは既に決定事項のようで、一人で盛り上がっていた。

「ねぇ、今日はもう帰るの? うちに泊まってもいいよ」

「いや、帰るよ」

 待っている人がいるから……とは言わなかった。

「そう、ならここは奢るね」

「ありがと」

 二人でレジへ向かう。

「あっ」

「どうした? あ、さっきのパンケーキのシロップ売ってるんだね」

「買おうかな」

「よっぽど気に入ったんだね」


「良かったら、生地とセットのものもありますよ」

 店員さんのオススメは、家庭で簡単に作れるミックスの生地とシロップのセットだった。

「お土産に買います」

 と言ったら、目を丸くした姉の顔がチラッと見えた。何か言いたそうにしていたが、先に会計を済ませた。


「ねぇ、栞菜」

 お店を出て駅へ向かう途中で、やっぱり聞いてきた。

「料理とか出来るようになったの?」

「えっ?」

「パンケーキ、焼けるの?」

「混ぜて焼くだけでしょ? 出来るわよ、たぶん」

「ふぅん」

「なによ」

「お土産って言ってたし、誰かが焼いてくれるのかなって思っただけよ」

 なかなか鋭いな、別に隠すつもりはないけど、恥ずかしさはある。

「まぁ、失敗するより誰かに焼いてもらった方が美味しく食べられるかもね」

「そうよね」

 もっと突っ込まれるかと思ったけど、何も言われず駅へ着いた。

「じゃあね」

「うん、また」


 別れ際、また無言でジックリと顔を見られた。

「なんなの?」

「やっぱり、雰囲気がちょっと変わったよ、うん、いいね」

 やはり、一人で納得していた。

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