第27話

 小学生も高学年になれば、誰がかっこいいとか気になるとか、誰が誰を好きだとかーー私は全く興味ないけどーー女子だけの会話の中心はソレだった。

 いつからか、私は誰からも声をかけられなくなっていた。自分からも話しかけないから孤立していく。

 ある日、見かねた先生が話しかけてきた。あぁ、面倒くさい。

 先生は他の子にも聞き取りをしたみたいで、どうしてこの状態になったか教えてくれた。クラスの中心の、とある女子に好きな男子がいてアプローチをかけたが相手にされなかった。その男子は私のことが好きだからと。

 馬鹿馬鹿しい。

 先生は何とかしようとアレコレ喋っていたが、どうでも良かった。黙って聞き流し、早く帰って本でも読もう、それだけを考えていた。


 状況は変わらず一ヶ月ほど過ぎ、私は風邪をひき学校を休んだ。症状が案外長引いて一週間休むと、なんだか学校へ行くのが億劫になっていた。どうせ卒業まであとひと月だ。

 先生が家庭訪問しに来たり、母も「あと少しだから」と説得するけど、私は学校へ行かなかった。行けなかった。


 母は母で、父との関係に限界を感じていた時期だったので、私の中学入学をきっかけに別居を決意した。

 私は母の実家近くの、田舎の中学へ通うことになった。

 祖母は既に亡くなっていて、祖父が一人で暮らしていた。

「栞菜、よく来たなぁ」

 目尻の下がった笑顔で歓迎してくれた。

「こんな田舎だけどな、この前コンビニが出来たんだぞ、家からだと自転車で15分くらいだな」

 自慢げに言い切っている。

「おじいちゃん、本屋さんってある?」

 私にとっては、コンビニよりも重要なもの。

「おぉ、本屋なら歩いて10分だ。おじいちゃんもよく行くんだ、一緒に行くか?」

「行く」


 祖父が連れて行ってくれた本屋さんは個人経営の小さな書店だったが、新刊もあれば古典文学もあったり、ジャンルも幅広かった。私が店内で本を眺めている間に、祖父と店主は将棋を始めていた。

 よく行くって、将棋目当てなのか。納得だ。

 おかげでゆっくりと過ごす事が出来た。

「栞菜、まだ勝負つかないから先に帰ってていいぞ」

「はい」


 舗装されていない砂利道を歩く。

 真っ赤な夕日がやけに大きく見えて、私はこの街に歓迎されているように感じた。


 この本屋さんは、一年後に閉店するまでの間、私の癒しの場所となった。

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