続・甘い話~先輩side

第25話

「久しぶりね……あれ?」

 私よりも少し遅れてカフェにやってきたこの人は、会うなり私の顔をじっと見る。

「ん、久しぶり……なに、何か付いてる?」

 顔をあからさまにジロジロ見られるのは好きじゃないから、思いきり嫌悪感を見せたのだけど、この人には通じない。

「いや、化粧でも変えたのかと思ったけど、違うね」

「特に変えてないわよ」

「そうね、なんとなく雰囲気が違うと思ったんだけど。で、今日は会社へ挨拶だったの?」

「そう、近くへ来たから」

「へぇ、珍しい。そんな理由であんたが私に会いに来るなんて、何かあった?」

 確かに、私からこの人を誘うことは今までほとんどなかったかもしれない。

 仲が悪いわけじゃなく、誘われるばかりだったから。

 なにかと構ってくるこの人のことが、私は嫌いじゃない。

 口は悪いしズケズケとものを言うし傷つくこともあるけど、全て私の事を思ってくれているのだとわかっているから。


 ただ、私も素直じゃない。

「ここのパンケーキが美味しいって聞いたからよ」

「ふぅん……確かにめちゃくちゃ美味しいけどね」

 わかっていると思うけど。


「ちょっと! シロップかけ過ぎじゃないの?」

「いいじゃない、別に」

「相変わらず甘いの好きねぇ、糖尿病になっても知らないわよ」

「私のお母さんなの?」

「お姉ちゃんですが、なにか?」

「あ、そうだったね」

 そう、この人は私の姉。4つ上だから26歳か。東京で一人暮らしをしている。

 私が中学生の時に両親が別居し、私は母親の実家へ越したが姉は高校生活のために父方に残りそのまま両親は離婚となった。かれこれ10年離れて暮らしてはいるが私と姉との交流はこうして続いている。

 というか、こんな私に関心を持って接してくれるのは姉くらいなものだ。


「こっちに就職したなら越してくればいいのに」

「引っ越しなんて、面倒だもの」

「そんなの業者に任せればいいでしょ」

「そういう手続きも面倒なの」

「本当に? 向こうに残りたい理由があるんじゃないの?」

 ニヤニヤしながら、そんなことを言う。

 昔から、この人には敵わないのかもしれないなと、ぼんやり思う。


「そんなことよりさぁ」

 パンケーキを頬張りながら話題を変える。

「なによ」

「私って、昔はどんな子供だった?」

「は? 何よ突然」

「え、なんとなく……」

「そうねぇ、可愛げがなかったわよ。まぁそれは今も、だけどね」




「ぜんぜん、かわいくない」

「素直じゃない」

 子供の頃に姉によく言われた。


 周りの人が、大人が、同級生が、初めて会った人が「可愛い、綺麗」と言うが、それは見かけだけの話。

 私に近づいてくる人たちは、少しだけチヤホヤして、そして離れていく。

 それはきっと、私がつまらない人間だから。


 そんな私の事を知りたいと言う。

 好きだから知りたいと……


 知ったら、貴女も離れていってしまうの?

 貴女だけは違うの?

 私が初めて手を伸ばして、手に入れた宝物。


「あま……ね」

「ん? どうした?」

 姉が不思議そうな顔をしていた。

「あ、甘いなって」

「だから、シロップかけすぎって言ったのに」

「だって好きなんだもん」

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