第23話

 返事は来なかった。

 私が送ったメッセージには既読すら付かなかった。

 夜になっても、翌日の朝になっても、次の日にも。

 そして一週間が過ぎた。


 いつものようにサークルの部屋へ入るとザワザワしていた。

 人だかりができていて、その中心に氷室先輩がいた。

「なんで?」


「あ、サトーちゃん、やっと来た」

 誰かが私を見つけて、一瞬の静寂があった。


「フランスのお土産貰っちゃった」

「先輩、サトーちゃんのこと待ってたよ」

 私が呆然としていたためか、外野が色々説明してくれた。

 先輩は海外から帰国してお土産を振る舞って、今日は久しぶりにサークルへ参加するとのこと。

「そう……なんだ」



「どうしたの?」

 帰り際、心配そうな顔をして先輩が近づいてきた。

「知らなかったです」

「ん?」

「フランスって」

「あぁ、急だったの」

「だからって」

「一週間会わないことなんて普通にあるじゃない」

「そういうことじゃない、あっ」

 つい大きな声が出てしまって、注目を集めてしまった。

「ごめんなさい、私」

 どうかしていた。昨日までの不安や、今目の前にいる先輩への安堵や、何も話してくれない憤りや色々な感情が混沌としていた。

「帰ろうか」

 先輩は戸惑っている私の手を取って歩き出した。

「ちょ、先輩」

 みんなが見てるからっ、やめて欲しかったけど手は解いてくれなかった。

 こういう無理やりなのは初めてかもしれない。

 バスの中で隣に座った時にも手は繋いだまま、それでも何も会話はなく無言だった。


「お土産のチョコ、食べるでしょ?」

 先輩の部屋にやってきてソファに座った。

「結構です」

 今はチョコ食べる心境じゃない。

「なんで、こんな顔してるの?」

 先輩は私の眉間を容赦なく触ってくる。

「元々こんな顔です」

 今度はほっぺを横に引っ張る。

「痛いっ」

「メッセージは帰国して気付いたの、だからサークルへ行ったのよ、早く会いたくて」

「それは、わかってます」

「私がいなくて寂しかったの?」

「それもあるけど、そうじゃなくて」

「なぁに?」


「先輩、聞いてもいいですか?」

「いいよ」

 先輩はしっかり目を合わせてくれた。

「海外からもオファーがあったって聞いたんだけど、フランスに行っちゃうの?」

「行かないよ、フランスも他の海外も。実際に行ってみて、違うって思ったから断ってきた」

「なら、まだ就職先は決まってない?」

「いや、決まったよ。今日返事して正式に内定出た。東京の会社」

「東京……」

「元々第一志望だったし、条件も良かったからね」

「そう……なんですね、私、何も知らなくて」

「そうね言ってなかったね、天寧には特に言う必要ないと思って」

 必要ない? そりゃ先輩の就職先だもん先輩の希望が一番だし、それに反対するつもりもないけど。

 必要ない? えっもしかして別れるつもりなの? それなら何も話す必要はないよね、え、どうしよ。


「どうしたの、何で泣くの?」

「やだ、先輩に会えなくなるの、いやだよ、別れたくない」

「会えるでしょ、何で別れる話になってんのよ、ほらもう、涙だけじゃなく鼻水まで出ちゃってるよ、しょうがないなぁ、おいで」

 先輩は、泣きじゃくる私をすっぽりと抱きしめ、泣き止むまでそのままでいてくれた。

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