第22話

「あ、雨降ってきちゃったね」

「帰る頃には止むかなぁ」

「梅雨だからしょうがないよね」

 いつもの部屋でいつもの三人でのお喋りに、声をかけてきた人がいた。


「相変わらずそこの三人は仲がいいなぁ、うっす、久しぶり!」

「あ、伊藤先輩お久しぶりです。その顔は、もしかして内定出たんですか?」

「あれ、わかっちゃった? 実はそうなんだ」

 誰がどう見ても満面の笑みで頷いたこの人は4年の先輩で、誰にでも気さくに声をかけ、サークルの中でもリーダーシップを取っていた。

「おめでとうございます」

「会社名は……聞かない方がいいか、何系なんですか?」

「大阪の外資系だよ」

「えぇ、凄い」

「大阪⁉︎ 先輩、詳しく聞かせてください」

「え、あぁ、おう」

 紫穂ちゃんは都会に憧れているらしく、先輩にいろいろ質問し始めた。


「ねぇ氷室先輩はどうなの?」

 蘭ちゃんは小声で私に聞いてきた。

「それが、わからないんだよね、そういうこと話してくれなくて」

「そうなんだ、なら近くに就職するつもりなのかな」

「どうしてそう思うの?」

「だって遠くに行くなら相談くらいするでしょ、恋人に」

「遠く……」

 そうか、就職先次第では今まで通り会えなくなるのか。


「氷室は引くてあまただからな」

「えっ」

 伊藤先輩の言葉に、三人とも注目した。

「優秀過ぎてあちこちから誘いが来てるって噂だよ、なんでも海外からも来てるっていうから、ってオイ、佐藤大丈夫か?」

 海外……そんな話聞いてない。というか、そもそも就活の話をしてくれない。私に相談したところでどうにもならないとは思うけど、知らないことが多すぎて。

 涙を堪えるのに必死だった。

「いや、あくまで噂だからな」

「あ、はい」


 帰る時間には小雨となっていた。

 私は鞄から折り畳みの傘を取り出した。先輩と傘をさして帰った日のことを思い出していた。

 スマホにはなんの通知もない。

 今日は会えないのかな。

 スマホにはなんの罪もないのに、しばらく睨み続けた。


 そして、私は思いを込めてメッセージを打ち込んだ。

『先輩、今日会えますか?』

 すぐに消した。


『先輩、会いたいです』

 送信ボタンを押した。


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