続・甘い話で何が悪い

第20話

「サトーちゃん、今日は先輩いないんだね」

「あ、うん。忙しいみたい」

「そうだよね、四年の先輩ほとんどいないもんね」



 新年度が始まってしばらくすると、先輩たちは就活以外でもいろいろと忙しいらしく、サークルへの参加者は少なくなっていた。


「私たちも二年後は就活かぁ、どうなるかなぁ」

「私は院への進学狙い」

「え、そうなの? 蘭ちゃん凄い」

 私はまだ将来のことを具体的に決めかねている。

「紫穂ちゃんは?」

「私は家を出て遠く……都会へ行きたい」

「えぇ、都会って東京ってこと?」

 ここもそこそこの都会だと思っている私には、東京なんて考えられないな。

「やだ、遊べなくなっちゃうじゃん」

「まだ先の話でしょー」

「まぁそうだね」

 そう、私たちにとってはそれはまだまだ先の未来の話で。



「それで、サトーちゃんは今日は先輩んちへ行くの?」

「えっと、まだ連絡ないから今日は行けないかも」

「ふぅん、寂しいね」



 あの後ーー告白がうまくいった後、私と氷室先輩が付き合っていることをこの二人には伝えたくて、でもどう話そうかと悩みに悩んでいたのだが。

 二人にはとっくにバレていたらしい。



「えっ、いつから知ってたの?」

 二人は目を合わせて、優しい笑顔を見せた。

「最初から、って言いたいけど途中からかな、いろいろ悩みを聞いてるうちに、これはサトーちゃんの話だなってわかってね」

「相手が氷室先輩だってことも?」

「うん、時期を同じくして先輩の雰囲気も変わってたからね」

「そう……なんだ」

 なんだか恥ずかしいけれど、知っていて応援されていたことがとても嬉しい。二人のことだから変な目で見られることはないとは思っていたけれど、少しは距離を置かれることも覚悟していたから。


 その後は自然に、サークル内でも知る人が増えて今ではほぼ公認となっており。

 それというのも、先輩が他人の目を気にせずちょっかいを出してくるようになったからで。

 ただでさえ目立つ先輩なのだから、もう少し自重をして欲しかったのだけど。

「何がダメなの?」

 なんて可愛らしく言われたら。

「ダメじゃないです」

 これが惚れた弱みと言うものだろうか。


 おそらくは、人気者の先輩を射止めた私の方への風当たりが強いだろうから、私がしっかりしていればいいことで。

 もしも先輩に何か言う人がいたら、私がしっかり守ってあげなきゃって身構えていたのだが。


 なぜだろう、何事もなく日々が過ぎていき、なんなら祝福ムードさえあったりして。

「それは相手がサトーちゃんだからでしょ」

「え、なんで? 私なんて先輩とじゃ不釣り合いだと思うよ」

 自分の容姿も人格も、普通だと思うのだ。何かに秀でているわけでもないし、たいして面白い人間でもないのに。


「まぁ、そういうとこだよね」

「ゼミが一緒の子も先輩のファンクラブ入ってるって言ってたけど、サトーちゃんなら許せるって言ってたよ」

 えっと、喜んでいいのかな? いいんだよね。争い事なんて、ない方がいいに決まってる。


「それに、私はお似合いだと思うよ」

 蘭ちゃんの言葉に泣きそうになったことは内緒にしておこう。


 帰り道、スマホに通知が来ていることに気付いた。

『家にいるから、来れたら来て』

 やった! 今日は会えるんだ。


 去年は二人でよく歩いた道を、今は速足で歩く。あぁ早く会いたい。


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