第19話

 あぁ、そうだった、誕生日。

 私、誕生日を好きな人と過ごせるんだ。

 そう思ったら、顔が勝手にニヤけてしまって、慌てて引き締める。

 ふと視線を感じて見上げたら、上から覗き込まれていた。

「おもしろいかーー表情ね」

「今、面白い顔って言いました?」

「言ってないわよ、ふっ、それより立てる?」

 笑ってるし、話逸らされたし。

 座り込んでいても仕方ないから、ゆっくり立ち上がったら、先輩にギュッと抱きしめられた。


 初めてここに来た時もこうやって抱きしめられたっけ。

「あったかい」

 あの時と同じ言葉を聞いて、心がじんわりと温まる。

「はい、先輩もあったかいです」

 と、抱きしめ返す。

 あぁ、やっぱり好きだなぁ。

 『あったかい』と『好き』は同義語じゃないだろうか。

 なんて、私の都合の良い解釈だろうか。

 ぼんやりと思考をウロウロさせていたら。

 

「あ、やっぱり言ってるよ?」

 抱きしめ合ったままなので、先輩の声が耳元でした。

「何がですか?」

「私、甘いもの好きって言ったよね」

「ん? うーん、言ってた気がしますけど」

「ほら」

 いや、ほらじゃなくてね。

「私はチョコと同類ですか?」

「ううん、チョコより上よ」

「それは、喜んで良いんでしょうか」

「大好きってことだけど?」

「それは……こ、光栄です」

 一気に顔が熱くなる。

 顔が見えない体勢で良かった。


 そう思ってたのに、すっと体を離して見つめてくる。

 先輩の形の良い唇に視線が釘付けとなる。口角が上がって近づいてきた。



 蘭ちゃんと紫穂ちゃんに話したら、そんな甘すぎる話なんて売れないよって言いそうだなぁ、なんて考えていたら......押し倒されていた。





【了】

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