第四章 甘い話で何が悪い

第16話

 結局、告白する勇気は出ずそのままズルズルと、先輩との関係は続いていた。

 季節は少しずつ春めいてきていた。


「ねぇ、今日終わったらご飯食べに行かない?」

 紫穂ちゃんの発案で何人かはもう集まっているようだ。

「私はちょっと」

 他の曜日なら喜んで行くところだけど、サークルのある日だから先輩の顔がチラついてしまうのだ。

「そういえばサトーちゃん、誕生日じゃないの?」

 蘭ちゃんは、人の誕生日をよく覚えている。

「あっ」

 私はすっかり忘れていた。

「そうなの、じゃあ行こうよ、奢るよ?」

「紫穂ちゃん、サトーちゃんだって予定があるんだよ」

「あ、そっか。誕生日は好きな人と?」

「え、いや、そんなんじゃーー」

 ないこともないか。



 バスの中では無言だった。

 そりゃ、普段からベラベラ喋りはしないけど。

 隣に座れたのに一言もないのは……

 表情も、いつにも増して……


 怒らせるようなこと、したのだろうか?


 先輩は席を立つ。

 私も続いて立とうとした。

「今日はいいよ」

「えっ」

「好きな人と過ごして」

「あっ」

 紫穂ちゃんたちとの会話を聞かれていたのか。

 それで?


「いいって言ったのに」

「迷惑ですか?」

「そんなことないけど」

 バス停を降りて歩いていた。

「好きな人なんていませんから」

「そう」


 もしも、あの時の会話を聞いて怒っていたのだとしたら。

「なんで怒ってるんですか?」

「怒ってなんてないわよ」

「機嫌悪そうですよ?」

「そんなこと……」

「そうですか」

「なぁに?」

「何でもないです」


 チャンスなんじゃないだろうか。

 先輩の気持ちに、嫉妬とかやきもちとか、そういうのが少しでもあったとしたら。


 部屋へ入って一息つく。

 私は勝負に出た。


「先輩、私、今日が誕生日なんです」

「そうみたいね、何か欲しいものでもあるの?」

「お願いがあります」

「なに? 私に出来ることならーー」

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