第15話

 浮かれようが落ちこもうが、時間は過ぎていくわけで、私は出来るだけ先輩の事を考えないようにしていた。

 それには、小説を書くことがちょうどよくて、いつもよりも早く書き上げる事が出来た。普段の私なら書かないような場面もあって、読み返したら泣いてしまった。自分で書いたのに……不覚だ。

 よし、これなら私が書いたってバレないだろう。


 サークルでは提出した私の小説が早速読まれ、概ね好評だった。もちろん、いくつかの指摘もあって今後に活かせそうだ。

 予想通り、みんな私が書いたものだとは思っていないようだった。

「あれ、作者名書いてないぞ?」

 しまった、名前書き忘れてたけど、まぁいいか。そのまま名乗り出ることもなく、お開きとなった。


「あっ」

 バス停では見かけなかった先輩が、扉が閉まる寸前で乗り込んできたと思ったら、私の座る席の近くで立ち止まった。

 しっかり視線が合ってしまって、私は俯いた。

 一度外してしまうと、もう先輩の方を向くのも怖い。バスの揺れに任せて眠ったふりでもする? あれこれ考えていたら「ねぇ」と頭上から声が降ってきた。

「今日の小説はよく書けてたわよ、まだ少し甘い部分もあるけど。集中して書けたんじゃない?」

「え、なんで……」

 思わず顔を上げていた。

 まるで、私が書いたものだってわかっているかのような話し方だったから。

 先輩は小首を傾げた。

 私の驚きに、驚いている風に見えた。

「なんで私の作品だと思ったんですか?」

「え、そんなの……わかるわよ」

 理由なんて……と言いかけて黙った。

 他の人はわかってなかったのに、先輩だけがわかるの?

 先輩……私、期待しちゃってもいいの?



「今日はいいわよね」

 いつもと同じ先輩の部屋、いつもより熱い先輩の眼差し。先輩の手が私の手首を掴む。

 先輩への恋心を自覚してから、初めて触れられた部分は、そこから熱が発生しているように熱く。


 私は初めて、果てた時に涙を流した。

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