第14話

 気分が良くなった私は、バスを降りた後、本屋へ寄った。

 さっき先輩の部屋で見た本を探すためだ。あいにく見つけられず、家へ帰ってから電子書籍になっていないか調べ、ダウンロードして読んでみた。


 切ない話だった。

 お互いに気持ちはあるのにすれ違い、ようやく思いが通じても相手の幸せを願って身を引くという。

 バッドエンドでも心に染みる、そんなお話を私も書いてみたい。

 もう甘い話は卒業だ、私が書いたって知ったらみんなが驚くような話を書いてやる。

 読んだ本にすぐに影響された私は、その日からまた創作に取り組んだ。



「そうだサトーちゃん、例の友達はどうだったの?」

「バレンタインでの告白、成功した?」

 蘭ちゃんと紫穂ちゃんとは、最近は集まればその話をしている。

「それが出来なかったみたいなの、いざとなったら怖くなったみたいで」

「そっかぁ」

「まぁ、今の関係を壊したくないのかな」

「でも、嬉しいこともあったみたいでね」

「お、なになに?」


 バスの中で受け取ったメッセージだ。

『もしかして、手作りだった?』

 あんな歪な形をしたマフィンが市販なわけないと思うのだけど、先輩は今気付いたのかな。

『はい、お口に合いましたか?』

『うん、他にも作れるの?』

『いくつかは』

『じゃあ、また作って』

『はい、喜んで』

 嬉しかった。

 羽が生えたように一瞬体が浮き上がった気がした。


「へぇ、でもそれって、やっぱり都合の良い女っぽくない?」

「えっ」

 浮かれていた私は返答に困る。

「紫穂ちゃんバッサリ言っちゃったね」

 蘭ちゃんは苦笑いしながらも。

「胃袋は掴んだ感じじゃない」とフォローしている。

 そうか、客観的にみればそういうことなのか。

「そう……なんだね、浮かれないように友達に言っておくね」

 二人には気付かれないように小さくため息を吐いた。


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