第8話
みんなが揃って、今日も読書会が始まる。実はそろそろ私の書いた小説が読まれるんじゃないかと思っていたが、ビンゴだった。
何を言われるかドキドキだ。
「甘いな」
「そうだね、いろいろとね」
「でもハッピーエンドは読んでいて気持ちいいよね」
意見を言う誰もが私の方をチラチラ見ている。まるで書いたのが私だと知っているかのように。
え、バレてるの?
「名は体を表すと言うしね」
誰かが小さな声で言う。
やっぱりか。
私は苗字が佐藤だから、サトーちゃんとかシュガーちゃんとか呼ばれることもあるし、名前も
「氷室はどう思う?」
司会進行の先輩が振った。
ドクンと心臓が跳ねた気がする。
氷室先輩の感想、聞きたいような聞きたくないような。
「ん、確かに甘すぎるし、基本がなってない」
冷たい風が通り過ぎた……気がした。
「氷室は相変わらず厳しいなぁ、まぁでも、伸び代はあるから」
フォローする方も苦笑いになっていて、申し訳なく思う。未熟な私のために、すみません。
帰ろうと思ったら外は雨だった。出口に佇んでいる人影がひとつーー
「氷室先輩? もしかして傘持ってないんですか?」
「朝は晴れてたから」
「天気予報は見ないんですか?」
「……」
見ないのか。
「どうぞ」
私は鞄から折り畳み傘を取り出し広げ、差し出した。
「いいの?」
「バス停まで一緒ですから」
「そう、ありがとう」
今日こそは自宅へ直行するんだ、そう決めていたのに。
だって雨で傘持ってないんだから仕方ないよね、先輩が風邪でもひいたらいけないし。
そんな言い訳をしながら一緒にバスを降りていた。
送り届けたらそのまま引き返そう、そう心に決めながら歩いた。
「それじゃ先輩、帰りますね」
「待って、肩濡れてる」
「大丈夫です、これくらい」
「ダメ」
クイっと引っ張られて転けそうになる。
「あっぶな」
「お風呂入ろ」
入ろってなんだ? ニュアンス的に、一緒に入ろうということのように聞こえたけど合ってる?
先輩の顔を見れば、微かに口角が上がっている。
「いやいや、いいです」
って言ってるのにズルズルと部屋の中に引き込まれていった。
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