第15話 拝んでも、いいでしょうか
「家に帰るまでが探索とはいうものの……」
「結局あの後はなにもありませんでしたね」
通路をてくてくと歩き、二人は無事にダンジョン「怒れる死霊術士の穴蔵」の入り口までたどり着いていた。ここまで来るとほかの探索者の姿もちらほらと見受けられる。
鉄也は視線を感じていた。といっても自分が見られているわけではない。見られているのは隣にいる、ピンク髪でメイド服のインパクトハンマー少女である。
分ってはいたけど、メチャクチャ見られてるな、と鉄也は隣のインパクトガールをちらりと見ながら思った。インパクガールのことは二度見してくる探索者も多い。まあ、衝撃的なビジュアルだものなあ、と鉄也は思う。
だが、どういうわけかピンク髪少女本人はまるで気にしていない様子だった。自分はぼっちで目立たない存在であるという思い込みが強すぎるらしい。どうしたもんだろうな、これ、と思っていた鉄也だったが、不意にピンク髪少女から声をかけられた。
「それで、このゴーストマントなんですが……」
「あー、やっぱり売却がいいんじゃないか?」
鉄也は言った。
トラップ部屋のボスキャラであるゴーストキングが落としていったアイテムだが、鉄也もインパクトガールも装備品として使うつもりはなかった。
「これをかぶってパクトくんを振り回すわけにもいきませんし、配信者的には顔が見えなくなるのはよくないかな、と」
「まあ、ピンク髪メイド服の上にゴーストマントかぶってハンマー担ぐのはやりすぎだよな……」
鉄也は苦笑しながら言った。現時点ですらやりすぎている感が強いのに、これ以上インパクトを出していくのは無茶だろう。
「神藤くんとは相性がよさそうにも感じるんですけどね」
「そうかもしれないが、これをかぶって魔弾撃つってのはなんだかシュールだからなあ……」
ゴーストマントの物理攻撃無効の効果は魅力的ではあるのだが、これをかぶって探索者をやるのはどうにもこうにも気乗りしなかった。
「わかりました。では売却ということで」
「ああ。協会に買い取ってもらおう」
話もまとまったので二人でダンジョン入り口の受付カウンターまで行った。
ダンジョン内で手に入れたアイテムは探索者協会に買い取ってもらうことが出来る。別に協会相手でなくてもアイテムを売却することは出来るのだが、協会を通すのが一番安心できるし面倒もないのだった。
アイテム買い取り担当の人にゴーストマントを渡す。
「おお! これは珍しいですね! ゴーストキングのドロップですか。あのモンスターはごく希にしかアイテムを落とさないのですが……」
「まあ、その……」
「希なシチュエーションで倒しましたからね……ハハッ」
わざとトラップにかかりましたとは言えないので、鉄也はインパクトガールと二人で言葉を濁した。
「これでしたら、こんなものでいかがでしょうか」
担当の人がすっと電卓を差し出してきた。
「ご、ごひゃっ……ご、ごご、ごごご……」
表示されていた金額は五百万円。インパクトガールは大層な衝撃を受けていた。
「ああ、それで大丈夫です」
「そ、それで大丈夫って、ご、ごひゃくまんえんですよ……ものすごい大金じゃないですか……」
「なにもそんなガタガタ震えなくても……」
「神藤くんは、平気なんですか……?」
「まあこのくらいの金額のアイテムを手に入れたことは何度かあるしな」
鉄也は言った。
アイテムを売った収入が百万円を超えたときは両親に報告するようにしているのだが、両親は「鉄也に任せる」としか言ってこないのだ。
信頼されているということなのだろうし、おかしな使い方はしないで貯金するように心がけていた。
「か、カッコいい……」
ピンク髪少女は目をキラキラさせてこちらを見ていた。
なんだろう、カッコいい、とは言われたけど、理由が大金に慣れてるからとなるとあんまり嬉しくないな、と鉄也は思った。
「では、買い取り金をご用意いたしますので……」
「あ、彼女と二人で分けるので半分ずつ口座に入れてもらえますか」
「せ、せせ、折半! 折半するっていうんですか!」
鉄也が担当の人に言うと、インパクトガールが素っ頓狂な声を上げた。
「そりゃそうだろ……」
巻き込まれた形とはいえ、彼女と協力して戦ったのだし、こうするのは当然だと鉄也は思っていた。
「神藤くん……あなたは、神ですか……拝んでも、いいでしょうか……」
「違う。拝むのはやめろ」
自分に対して両手を合わせ、頭を下げてくるインパクトガールに向かって、鉄也ははっきりとそう言ったのだった。
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