第14話 家に帰るまでが探索

「なにはともあれ」


「無事に戻ってこられてよかったです」


 鉄也はピンク髪少女と二人でほっと安堵の息を漏らした。転移トラップに巻き込まれたときはどうなることかと思ったものだったが、なんとかなってよかったと思う。


「お疲れ様」


 一時ではあるが相棒としてともに戦い、その短い時間の間に何度かガチ恋しかけたぼっち探索者に、鉄也は言った。


「神藤くんもお疲れ様でした――じゃない!」


「あー、無事に家に帰るまでが探索っていうスタンスなのか? わからなくもないけど、いまはとりあえずトラップからの生還を喜んでおくことにしないか?」


 家に帰るまでが探索である、というフレーズは探索者登録するときに探索者協会から必ず聞かされる。


 たしかに鉄也も正論だと思うし、帰り道も十分に気をつけないといけないというのはよくわかるのだが、それでも今回は二人でしっかり頑張ったわけで、ちょっと労を労うくらいはいいのではないかと思っていた。


 なのでそう言ったのだが、どういうわけかインパクトガールはブンブンと首を横に振っていた。


「ち、違います! 違いますよ! そういう話じゃないです! わたし、再生回数欲しさにわざとトラップにかかった挙げ句、神藤くんを巻き込んで、おまけにボスキャラとタイマン張らせちゃったんですよ! こんなのクズの所業じゃないですか! これはもう断罪されるほかないでしょ! さあ、その魔弾でもって、わたしの後頭部に二発撃ち込んでください!」


「出来るか! あとなんでマフィア映画の処刑みたいなやり方なんだよ!」


「わたし、あの手の映画、わりと好きなんですよ……ハハッ」


 インパクトガールが軽く笑う。


 口ぶりから察するにかなり詳しそうである。このぼっち少女が一人部屋にこもってマフィア映画を鑑賞している姿は、ある意味絵になりそうだと鉄也は思った。


「さあ神藤くん、ひと思いに、やってください」


 そう言うとマフィア映画好きの少女は床に跪いて目を閉じ、両手を上げた。完全に処刑待ちのスタイルだった。


「…………」


「ど、どうしたんですか? わたしのような生ゴミは処刑するしかないでしょう?」


 恐る恐るといった感じで片目を開けてインパクトガールが言う。

 鉄也はため息をついた。


「自分のことを生ゴミとか言うんじゃない」


「し、神藤くん……」


「そりゃたしかにみっともないし情けないしどうしようもない奴だとは思うが」


「あ、批判はきっちりするんですね……」


 ちょっとショックを受けたらしい底辺配信者がしゅんとした様子で言った。


「でも、お前なりに頑張ってたんだろ。俺はあんまり気にしてないから、処刑だのハラキリだのはなしだ」


「…………」


「ん? どうかしたか?」


「い、いえ! な、なんでもない! なんでもないんです! 頑張りを認めてもらえて承認欲求がジャブジャブ満たされたとか、さっきの頼りになる姿を思い出してしまってときめいたとか、あまつさえガチ恋しかけたとか、そういうのではないので! ないので!」


「そ、そうか……」


 すごい勢いで言い募ってくるこじらせぼっちの姿に鉄也は若干引いていた。


 なんか頑張りを認めてもらえたのが嬉しすぎて承認欲求が満たされた上にガチ恋しかけたらしい。


 女の子からこんな風に言ってもらえてるのにあんまり嬉しく感じないのはなんでだろうな、相手は一応美少女なんだけどな、と鉄也は思った。


 まあ本人がこうして全力で否定するアクションを取っているのだから、頑張りを認めてもらえて嬉しくなってるわけじゃないし、ガチ恋しかけたわけでもないということにしておこう。


「とにかく、そういうことだから、そっちもあんまり気にしないでくれ。じゃあ、入り口まで戻ろうか」


「そ、そうですね」


 鉄也が言うとインパクトガールも処刑待ちの体勢をやめて立ち上がったのだった。

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