第12話 心からの叫び
「いやはや、失礼しました。いまさらではありますが、わたくし、こういうものでして……」
鉄也がずいぶんと遅い自己紹介をすると、インパクトガールはたはは、と笑いながらポケットからなにかを取り出して両手で差し出してきた。
名刺である。同年代くらいのはずなんだけど、なんでこんなもの持ってるんだろう……と思いつつも鉄也は「これはご丁寧にどうも」と言って両手で名刺を受け取った。
名刺には「探索者・配信者 インパクトガール」と書かれていた。
「まあ、知ってるけどな……」
「へへへ、初めて誰かに名刺を渡しました……」
既知の情報しか書かれていない名刺にちょっとがっかりした鉄也だったが、ピンク髪少女の方は名刺を使うのが初めてらしくちょっと喜んでいた。
彼女の本名は多少気にはなるのだが、底辺クラスとはいえ女性の配信者となるとなにかと用心しないといけない部分もあるのだろう。ここは聞かずにおくか、と鉄也は思った。
「名刺を使ったことがないとなると、やっぱりパーティ組んだりしたことはないのか」
「……わたしもね、努力はしたんですよ。こう、「パーティメンバー探してますよ。誘ってくれていいですよ」感を出しつつ、探索者協会をうろついてみたりだとか「わたしいまフリーですよ」オーラを出しつつダンジョンをうろついてみたりだとか」
「受け身じゃないか」
「……これでもわたしに出来る最大級の攻めの姿勢だったんですよ……ハハッ……」
他力本願なスタイルにツッコミを入れた鉄也だったが、インパクトガールは悲しげに笑った。
「そうか……」
薄々というかもうはっきりと勘づいていたことではあるが、やはりこじらせたタイプのぼっちらしい。
「パーティを組みさえすれば、わたしはこのパクトくんでもってホームランを量産して、あっという間に頼れるヒーローになれるんですけどね……」
「まあたしかにな。実際問題、お前結構強いだろ」
ゴーストキングにこそ空振り三振だったわけだが、ほかのモンスターはちょっと相手にならない感じだったし、このぼっち少女の腕前について鉄也はかなり高く評価していた。
「あ、ありがとうございます……ま、まあ、いつでもヒーローになれるように鍛えていますから……へへへ」
「自分から声かければなんとかなりそうな気がするけどなあ」
照れるインパクトガールに鉄也は言った。少々インパクトがありすぎるがそれでも見た目はかわいいし、腕も立つのだから仲間に入れてくれる探索者は割といるだろうと思った。
「わ、わたしのごときクソザコ配信者が自分から仲間に入れてくれとか言うなんて、む、無理ですよ!」
「うーん、そうか……」
ホームランをかっ飛ばす自信と実力はあるのに仲間に入れてくれと言うのは無理らしい。これで配信者としてのし上がることまで夢見ているというのだから大分こじらせてる感じだな、と鉄也は思った。
「あ、ゴーストキングがアイテム落としていったみたいですよ」
インパクトガールが鉄也の後ろを指さして言う。彼女の言うとおり、ゴーストキングが消え去った後には大きな白い布が残されていた。
「なんだこれ?」
鉄也は白い布を拾い上げはしたものの、どういうアイテムなのかまるで見当がつかなかった。
「あ、わたし鑑定のスキルあります」
さっと手を上げてインパクトガールが言った。
「お、悪いな。俺は魔弾しか使えないから協会で鑑定してもらえるまでアイテムの詳細がわからないんだよ」
「任せてください。えーと、アイテム名は、ゴーストマント。……布をかぶっている間、ゴーストに変身可能……その間は物理攻撃が無効化される、だそうです」
「へー、これ一応装備品なのか」
「みたいですね。ちょっとかぶってみましょうか」
ピンク髪少女がそう言うので鉄也は白い布あらためゴーストマントを彼女に渡した。
「はい。ではこうして手に入ったドロップアイテムのゴーストマントなんですけども、さっそくかぶってみようかな、と思います」
浮遊カメラ目線でインパクトガールが言った。上級モンスターからのドロップだし、再生数稼げそうなネタは積極的に活用していくスタイルなのだろう、と鉄也は思いながら彼女の様子を眺めていた。
インパクトガールが白いゴーストマントをすっぽりかぶる。全身は完全にマントに覆われて、足下で白い布がひらひらと揺れていた。
「なんというか、シーツかぶって幽霊ごっこしてるみたいだな……」
「ですね……でもまあ、こっちは本当に変身できるわけですけど」
ゴーストに変身したインパクトガールが苦笑していた。
「う、うらめしやー……」
ピンク髪配信者が幽霊っぽいことを言っていた。
「なんかかわいらしい感じになってるぞ」
「え! か、かわいい、ですか……そんなこと言われたら、照れちゃいますよ……」
白い布をかぶった物体がなにやらもじもじしていた。元の状態なら一応美少女だし、照れる姿もいいのかもしれないが、この状態だと異様な物体にしか見えなかった。
「そ、それはともかく、怖がらせるつもりで言ったのにかわいらしいとか言われるのはちょっと悔しいですね」
「んー、そうは言っても気合いが足りないというか、怨念みたいなのが感じられないからなあ……」
「怨念、怨念ですか……」
少し考え込んでいたインパクトガールだったが、なにか閃いたのか、すっと鉄也に向き直った。いいセリフが浮かんだのか、と鉄也が思っていると幽霊はこう言った。
「いいねを、よこせえええええええ!」
それは暗くてドロドロとした感情がこもりにこもった、ぼっち少女の魂の叫びだった。
「なんか泣けてくる感じになってるぞ」
「そんな! ちゃんと怨念を込めたのに!」
鉄也の率直な感想を聞いたインパクトガールはそう言ったのだった。
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