第11話 そういえば
「探索者さん頑張ってー!」
ピンク髪少女が後ろから応援してくれていた。
ゴーストキングとなるとかなりの強敵だ。ソロで挑むのは中々辛い相手である。でもまあ、と鉄也は思う。
少々、というかかなりの変わり者ではあるが一応はかわいい女の子から応援してもらえるのなら、頑張れるか。
いままでずっとソロでやってきたのでこういう風に誰かのために戦うとか応援してもらえるとかは、心にぐっと来るのである。
ソロでの探索だってもちろん楽しいのだが、いまは普段にはない力が湧いてくるのを感じていた。女の子に応援してもらえると力が出るなんて自分でも現金だとは思うが、出るものは出るのだから仕方がない。
「任せてくれ!」
鉄也は気合いの入った声で後ろからの声援に応えた。
「探索者さん……わたしなんかのために……。承認欲求をこじらせにこじらせたあげく、再生回数欲しさにわざとトラップに引っかかろうとして、善意の忠告をしようとしてくれた方を愚かにも巻き込み、ザコモンスターは次々とかっ飛ばしたけどボスキャラには空振り三振な、こんなわたしなんかのために…………なんか言っててずーんと気が重くなってきたんですが……わたし、クソどうしようもない奴ですね……やはりハラキリするしかないのでは……」
初めのうちは感動していた様子のインパクトガールだったが、言ってるうちに罪悪感に耐えられなくなったらしくテンションがどんどん下がっていった。
うーん、客観的に見たら彼女の言うとおりなんだろうけど、こっちとしては普通に元気よく応援してもらえた方が力が出るんだけどなー……、と鉄也は思った。
「あの、こんなクソザコドマヌケ配信者のために戦わせてしまって、本当に申し訳なく思ってます……さっきは、頑張って、なんて言っちゃいましたけど、わたしのようなゴミクズにそんなこと言う資格はないですよね……ハハッ……。探索者さん、無理はしないでください。こんな事態を招いた以上、わたしは責任を取って今日限りで探索者をやめますから――」
「そんなことはしなくていい」
鉄也は振り返って言った。
「え?」
「たしかにどうしようもない失敗だけど、だからって探索者を、こんなに楽しいことをやめるなんてもったいないだろ? まあ、ダンジョンに潜るのに飽きたのならそれは仕方がないけど」
鉄也は言った。こんなことくらいで探索者をやめて欲しくはなかった。たしかにトラブルに巻き込まれた被害者の身なのかも知れないが、それでもこうして彼女と一緒に探索するのは割と楽しかったのだ。責任を取ってやめるなんて言って欲しくなかった。
「探索者さん……。そう、ですね。ダメダメなわたしだけど、いいねが欲しくて配信者やってるけど、でもやっぱり探索者やるのは好きなんです。こんなに楽しいことをやめるなんて、もったいないですよね」
「ああ。もったいないに決まってる!」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、本当に嬉しいです」
探索者の少女は笑った。その笑顔に鉄也も嬉しくなった。
「あっ、もうひとつ言いたいことがあるんですけど……」
「ん? なんだ?」
上機嫌で鉄也が聞く。
「えっと、ゴーストキングがさっきから力を溜めてます。大技撃つつもりみたいですよ」
インパクトガールがさらりと言った。
鉄也は弾かれたようにバッと後ろを振り返った。白い幽霊型モンスターが体を大きく膨らませ、ばっくりと口を開けてなにかをはき出そうとしていた。
「そっちを先に言って欲しかった!」
「あ、すみません……」
インパクトガールは申し訳なさそうにしていた。説得のためとはいえ敵に背を向けるのはダメだった、と鉄也は思う。
「大丈夫ですよ。たとえ虫けらのように蹴散らされたとしても、わたしは探索者をやめたりしませんから」
「いい笑顔で親指を立てるな! まだ終わったわけじゃないだろ!」
晴れやかな笑みを浮かべるメイド服少女に鉄也はツッコんだ。負けたからといって探索者をやめたりしないと言ってくれたのはいいが、そうはいっても負けるのは嫌だった。HPがゼロになった後のぐったり感はやっぱりキツいのである。
「……長いようでいて短い時間でした。でも、探索者さんと組めて、楽しかったですよ……」
「諦めムードを出すんじゃない! ここで負けたら締まらないだろうが!」
なんだかんだで美少女なので儚げに笑う姿はまあまあ様になるのだが、それでもバッドエンドは御免被りたい。
鉄也はいまにも強力な攻撃を繰り出してきそうなゴーストキングに向かって駆けだした。
勝つためには、アレを使うしかない。
「あ、危ないですよ! 無理しないで下さい! わたしは負けても大丈夫ですから――」
「……勝てるのなら、それに越したことはないだろ!」
気遣ってもらえるのはありがたいが、やっぱりここは勝って終わりにしたかった。ゴーストキングが白く輝く魔力の塊をはき出してくる。
その間も鉄也はゴーストキングに向かって走る。よし、十分近づいた! そう判断した鉄也は、迫り来る白い光弾に向かって、切り札を撃った。
「ポイントブランク!」
それは射程を犠牲にして威力を極限まで高めた、直径一メートルを超す巨大な魔力の弾を撃つ、鉄也の必殺技だった。
至近距離で鉄也の魔弾とゴーストキングの大技がぶつかる。そして、青い魔弾は白い光弾を飲み込んで突き進んだ。目も鼻もないゴーストキングだが、鉄也にはモンスターが驚いたように見えた。
白い光を巻き込んだ魔弾がゴーストキングにぶち当たり、上級モンスターを一発で消滅させた。
「す、すごい! すごいですよ! 探索者さん!」
インパクトガールは飛び跳ねてそう言った。
「……えーと、言おう言おうと思ってはいたんだが……」
鉄也は振り向いてピンク髪少女を見た。
「ん? なんですか?」
「俺は探索者さんじゃない。神藤鉄也だ」
「……あー、そういえば名前聞いてませんでしたね……ハハハ……」
乾いた笑いをもらしてインパクトガールが言った。
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