第12話:夫婦喧嘩は犬も食わない。

耳がダンボ状態になってる好人はルシルに聞いた。


「なんかさ、その話が本当なら俺、人間界に帰れるってことだよね」


「まあね・・・でも私は行けないよ」


「なんで?・・・どうして?」


「そんなことしたら私は死んじゃうから・・・」


「なんで、そういうことになるんだよ、俺はこの街で生きてるじゃん」

「だったらルシルだって人間界に行っても死んだりしないだろ?」

「そう言う理屈にならないか?」


「なんでかって言うと、昔からそういう言い伝えがあるからだよ」

「人間界へ悪魔が行ったら、なにか支障があるのかもね」

「悪魔だからって神聖な場所が苦手ってワケじゃないけど、ダメだって

言われてる以上、なにかあるんじゃないの」


「結局、悪魔が人間界へ行ったらどうなっちゃうかなんて誰も知らないんだけどね」

「そもそも行ったヤツがいないんだから・・・いるかもしれないけど」

「人間界になんか行ったら、どうなっちゃうか分かんないってこと・・・」

「まあ、そもそも人間のルールが私らには当てはまらないからさ?」


「なるほど・・・環境も違うし、風習も文化も違うからな・・・」


「悪魔は人間界みたいなキュウクツなところじゃ生きていけないのかもね」

「私らは、いつでも自由でいたいからさ・・・」

「好きなことして生きてたいじゃん」


「アザゼルの車にみんなで乗ってさ・・・暗黒の海に海に繰り出すんだよ」

「ラ・ムール「死神の館」で美味いもん食って、酒飲んでカジノで遊んでさ、

夜はセックスに明け暮れる・・・それが私らの生き方」

「人間の世界なら完全に堕落してるよな・・・」


「それっていいことなのか?、ルシル?」


好人は自由があるのは、うらやましいと思いながらそういう生き方は自分には

合わないと思った。

世間の人がみんな働いてるのに、自分はプー太郎してて、それがとても

後ろめたい気持ちになっていたから・・・。。


「ヨシトは真面目なんだよ・・・」

「あんたには無理かもしれないけど、それが悪魔の生き方なの・・・」

「神様みたいに清廉潔白な生き方は私らには無理なんだよ・・」

「いちいち決まりにしばられて、生きたくないしな?」

「ヨシとは人間だし、ここで生まれたわけじゃないからね」


「そうだね・・・僕は悪魔にはなれそうにないや」

「ルシルたちといると楽しいけどね」


「でも僕も、ずっとこの世界に留まっていたら君達と同じようにに生きて

かなきゃいけなくなるんだろうな・・・」


「もし、そうなったら、僕は人間界に戻っても元の生活には戻れないかもね」


「いいじゃん、もしそうなっても私がついてるから・・・」

「毎日遊んでエッチして生きてこうよ」


「俺は気が多いのかな・・・ルシルとエッチもしたいし、でも人間界にも

帰りたいし・・・」


「向こうに帰っちゃったら、私とはもうエッチできないよ・・・」

「って言うかさ・・・そもそも私とヨシトは永久に離れられないからね」

「本当に、ヨシトにまた耳鳴りがおこったら人間界に帰っちゃうのかな?」


「耳鳴りたって、そんなに都合良くはおこらないよ」

「それに、最近は小さい耳鳴りすらしなくなってるんだ・・・」

「だから、そしたらもう僕は人間界には帰れないのかもしれない・・・」


「なんか複雑なんだな・・」


そう言ったのはバラキエルだった。


「そうだよ、複雑なんだよヨシトは・・・」

「人間界に帰る方法が見つからないからね」


ルシルが言った。


「ヨシトはこの街へ来るのにどうやって来たんだよ」

「それと同じ状況を作ってやれば帰れるんじゃないのか?」


「バラキエル・・・おまえも占い師になれるな・・・」

「それが、今話してた耳鳴りだよ・・・ヨシトは激しい耳鳴りが原因でこっちに来ちゃったんだ」

「でも、その耳鳴りが、おこらなくなってきてるらしいって・・・」


「ヨシトはここに長く留まってるうちに、悲しかった出来事も記憶から徐々に薄れていって耳鳴りがおこらなくなってきてるのかもね・・・」


「そしたら、いつか耳鳴りすらもしなくなるんじゃないか?」


「バラキエルやあのじじいが言ったことがマジなことなら、ヨシトに耳鳴りが

しなくなったら、もう人間界に二度と帰る方法はなくなっちゃうかも・・・」


ルシル誰に言うでもなくが言った。


「そうだよな・・・」


好人はため息をついた・・・そして急に不安になった。


(もう母親には永久に会えないのか・・・)

(今頃、行方不明で警察に届けられてるかもな・・・)


「ヨシト、落ち込まないで・・・そういやあ、私まだ好人の耳鳴りの原因

聞いてなかったよね・・・」


「そうだっけ?」

「実は僕のせいで、可愛がってた犬が亡くなったんだよ」

「寿命が来てとか病気でとか、そういうので亡くなったのなら諦めもつくけど・・・

そうじゃないんだ・・・救えた命だったんだ」


「ふ〜ん・・・バッカじゃないの?・・・犬一匹死んだくらいでそんなに

落ち込むくらい悲しいことなのか?」

「それが原因で耳鳴りがおきたって?・・・」


「犬一匹って・・・そんな言い方ないだろ?」

「ルシルには分かんないよ・・・」


「目の前で、自分にとって大切な人が死にかけてるのに救えないんだぞ・・・。

自分がそこにいるのに、なにもできないで、ただ指をくわえて死んでいくのを

見てるしかないんだよ・・・」

「その時の情けなくて悔しい気持ちなんか体験したものにしか分かん

ないよ・・・・」

「僕にとっては、身につまされる出来事だったんだ・・・」


ルシルは好人の勢いに、目を丸くした。


「ヨシト・・・なに一人で興奮してるの・・・」

「ん〜・・・ごめん・・・悪かった・・・犬一匹なんて言って・・・」

「たしかに私はペットは飼ったことないから好人の気持ちは分からないよ・・・」

「でも言ってる意味は分かるよ・・・」


「ルシルには永久に分からないんだよ・・・」


「分かるよ・・・」


「分かるはずない!!」


「ヨシト・・・いい加減にしろよ・・・めそめそする男なんて私は嫌いだよ」

「そんなやつ、とっとと人間界へ帰ればいいんだ・・・」


「おいおい夫婦喧嘩は犬も食わないっていうぜ・・・」

「仲良くしなよ」


そう言ったのはアルダト・リリーだった。


「夫婦喧嘩って・・・僕たち、まだ結婚してないよ」


「あれ、好人、もうルシルとエッチしたんだろ?」

「悪魔とエッチしたってことは契約が結ばれたってことだよ」

「つまり結婚したってこと・・・分かる?」


「え?契約ってそう言うことだったのか?」

「そんなことルシルから聞いてないけど・・・」


「そんなことどうでもいいでしょ・・・」


ルシルがぶっきらぼうに言った。


「どうでもいいってことはないだろ・・・僕の進退問題だよ」


「もうどうでもいい・・・あんた人間界に帰るんだろ、じゃどうでもいいよ、

そんなこと」


「どうでもよくない・・・」


「あ〜、ちょちょ・・・あのさ、話の趣旨が違ってきてない?」

「さっきまで犬と耳鳴りの話してただろ?」


そう言ったのはエイシェト・ゼヌニムだった。


「好人がムキになるからだよ・・・」


「ルシルが僕をバカにするからだろ・・・」


「バカになんかしてないだろ」


「おいっ!!いいかげんにしろ!!それってどっちかが、謝らないと終わらないパターンだよ・・・」


またエイシェットが言った。


胸のうちが収まらない好人は思っていた。


(結婚の件は、さておいてもサラダのことを悪く言うのはルシルでも許せない)


好人は亡くなったサラダのことで、ルシルに適当にあしらわれたことで、悲しい上に

気持ちのやりどころに戸惑っていた。

そのせいで、またサラダを失った時のことを思いだした。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る