第8話:ルシルとの契約。

「あのさ・・・ルシル・・・契約ってなに?」


「あ〜それか・・・」


「契約ってのはね、ちゃんとした魔法陣の上でセックスするってことだよ 」


「悪魔と契約を結ぶってことは私とエッチしたら未来永劫、好人は私から

離れることができなくなるの」


「じゃ〜もしそうなったら、俺は永久にここから帰れなくなるんじゃないか? 」


「うん、まあな・・・」

「でも、人間界に里帰りくらいはできると思うけど・・・」


「けどって・・・里帰りって・・・」

「どうやって?」


「アザゼルとバラキエルが人間界に行ける方法を研究してるやつと交流がある

みたいだぞ」

「その方法が分かったら、向こうに帰れるんじゃないか?」

「いつのことになるか分かんないけど・・・」


「そんないいかげんな・・・」


「もしさ、もし途中で契約破棄とかってしたらどうなるのかな?」


「途中でセックスやめるのか?」

「いいところでやめる男なんていないだろ?」

「そうだな・・・契約破棄したらその時はタルタロスに落とされるけど、いい?」


「何?そのタルタルソースって?」


「タルタロス・・・地獄だよ・・・混沌、カオスとも言うけどね」

「ここへ来る時のバスの行く先に「混沌の街」って書いてあっただろ」

「犯罪者とか契約を破ったものは、みんなタルタロスに落とされるんだよ 」


「だから、私とセックスした時点で契約は結ばれたことになるの・・・ 」

「でも、破棄なんてできないよ」

「契約は一方通行・・・一度契約をしたら戻ることはできないからね・・・」

「そんなことより、私といい気持ちになれるんだからいいだろ?」


「まあ気持ちよくなるのは賛成だけど・・・」

「迷うな〜・・・まだ人間界にも未練あるし」


「私と契約結ばないと人間界に帰る方法も見つけてあげないよ・・・

それでもいい?」


「脅迫じゃん・・・それってやっぱり矛盾してるよ」


「脅迫じゃなくて、取引って言うんだよ」


「さてもういいだろ・・・そろそろ我が家に帰るか、ヨシト・・・」


「学校は戻らなくていいの?」


「こんな時間・・・先生だってもう家に帰ってるよ」


「あ、そうか・・・僕バカだよね・・・」


「そんなところが可愛いんだよ、ヨシト・・・さ帰ろ」

「おまえら、私たち先に帰るからな、じゃ〜な」


「お〜ルシル・・・帰るんなら送って行ってやろうか?」

そう言ったのはアザゼルだった。


「いい、馬車拾って帰るから・・・またな」


そう言ってルシルは好人の手をひいてラ・モールを出た。


(さっき、ルシルは馬車って言ってたよな・・・)


「ルシル・・・帰りもバスじゃないの?」


「バスなんか待ってたら、また時刻どおりに来ないだろ?」

「学校は遅刻してもいいけど、今は早く家に帰りたいの・・・」


バス停を通り過ぎたふたりは、馬車亭で待っていたら、しばらくすると

何もないところから、スーッと馬車が現れた。


「え?あの馬車どこから現れたんだ?」

「それに馬車を引っ張ってる馬って・・・あれもしかしてペガサス?」


「そうだよ・・・もしかしなくてもペガサスだよ」


「でも、あのベガサス・・・黒いけど」


「黒いペガサスもいるんだよ、ペガサスが全部白いってのは、それは先入観」

「普通、ペガサスは白だと思いこんでるから、そう思うんだよ・・・」


「そうなんだ・・・でペガサスってことは・・・?」

「まさかだけど・・・まさか?」


「そのまさか・・・空飛んで家に帰るからね」


馬車はちょうど二人乗り用で、好人とルシルは仲良く馬車に乗った。


ルシルはペガサスに向かって何か言った。

そうしたら馬車は、いきなり宙に浮いた。


驚いた好人は馬車から落ちそうになった。


「シートベルトなんかついてないからな、振り落とされるなよ、落ちたら死ぬぞ」


好人とルシルは、メルヘンな気分で街の灯火と夜の星空を眺めながら

しばし空のドライブを楽しんでから、ルシルの家に帰ってきた。


「さあ、帰ってきたよ」


ペガサスの馬車は道の途中まで行ってから、来た時と同じように消え去った。


「ラ・モールでついでに晩飯食ってくればよかったな」

「腹減ってないか?好人・・・」

「まあ、減ってるっていや減ってるかも・・・」


「それより、明日でいいからさ、僕が帰る方法探してほしんだけど・・・」


「しゃ〜ねえな・・・でもその方法を探し当てたらおまえ、人間界にさっさと

帰っちゃうだろ? 」

「それじゃ〜つまんないじゃん」

「好人が人間界に帰る前にやることがあるだろ?」


「え?やること・・・やることって・・・ああ・・・そうか・・・」


「私たち、もう恋人同士たろ?」

「好人・・・私を抱きたいだろ?」


「そ、そりゃね・・・」


好人のアドレナリンが一気に上昇した。

テンションが上がりそうだったが、飢えた狼みたいだと思われると、めちゃ

恥ずかしいから、好人はルシルに悟られないよう感情を抑えた。

好人の場合は狼って言うより羊だったかもしれない。


考えても見てよって好人は思った。

悪魔とセックスできるなんて、千載一遇のチャンスじゃん。

普通ありえないから・・・

こんな経験は、今じゃないと経験できないからね。


好人は相手が悪魔と言うことには、まったく抵抗はなかった。

それより、こんなありえないことが経験できることにワクワクしていた。

ルシルの「私を抱きたいだろ?」一言で好人は人間界に帰るってことを一瞬忘れた。


「こっちに来て・・・」


そう言うとルシルは好人の手を引いて別の部屋に連れて行った。

その部屋は床に魔法陣が描かれた絨毯がしきつめられていて、

壁にも天井にも魔法陣が描かれてあった。


ルシルは部屋の隅に立ててあるロウソク立てのロウソクにひとつひとつに

火を灯し始めた。


そして木製のお香立てのような容器の、そこにも火を入れた。


「部屋を浄化するためにね・・・お香を焚くの・・・」


部屋の中はロウソクの灯りに照らされてはいたが、それでもまだ薄暗かった。


「好人・・・ここに座って、魔法陣の真ん中に・・・」


好人はルシルの言われるままに魔法陣の中に座った。


するとルシルは好人の前に向かい合わせに座って

好人の両手を持って、なにやら呪文みたいな言葉を喋り出した。

その言葉を何度か繰り返した。


一通り呪文らしき言葉が終わるとルシルは、おもむろに、好人の服を脱がし始めた。


好人の服を全部脱がせると今度は自分の服をこれみよがしに脱いでいった。

いやらしい笑みを浮かべて・・・


好人は生唾を飲んだ・・・。


「先に言っとくけど、エキサイトして魔法陣の外に出ちゃダメだからね・・・

出た時点で火傷するから・・・」


「なんで?」


「獲物が逃げないため・・・」


「獲物って・・・僕のこと?」


「あ〜悪い・・・獲物って言い方はマズいよね」


「私と契約を結んだ彼氏が逃げないため・・・」


「どっちにしても逃げられないんなら言い方変えたって同じだよ」

「分かった・・・魔法陣からは出ないよう気をつけるから・・・」


本当は魔法陣から外に出たってなにもおこらないのだ。

ルシルは自分と好人のセックスに緊張感と神秘性を持たせたかっただけなのだ。


つづく。

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