第5話:少しづつ分かって来る悪夢の街。

バス停まで行く道筋でルシルは言った。


「私は好人のこと、気に入ってるからね・・・」

「昨夜は、じらして悪かったけど、そのうちエッチさせてあげるから」


「え?、まじで?・・・いつ?」


「そんなもん、何月何日エッチさせてあげるなんて言えるか」

「そのうちだよ」


「エッチだよね・・・それってアルファベットの8番目だよ〜、なんて

言わないよな・・・」


「そんなレベルの低いギャグ言わないよ」

「ファック、セックス、性交、交尾・・・あと放送禁止用語・・・そのエッチだよ」


「そんなに、いろいろ並べなくても分かるよ」


「もしかして、好人って童貞なわけ?」


「まさか・・・セックスの仕方くらい知ってるよ・・・今はいないけど

前は彼女だっていたし・・・」

「じゃ〜逆にこんなこと聞いて、あれだけど・・・ルシルって出会った男を

すぐに誘惑してんの?」


「な、わけないでしょ、私だって貞操観念あるんだから・・・」

「私がいいなって思った男だけよ」

「私、以外と男にはうるさいんだよ・・・」

「好人とは、なんとなくだけど、運命を感じたからね・・・」


「好人は私に気に入られてよかったんだよ」

「じゃないと、バスに轢かれて死んでるか、野垂れ死にしてるところだよ」


「カエルみたいにバスに轢かれるのは、ちょっと嫌だな・・・」


「それより、早く行くよ」


好人は、金魚のウンコみたいにルシルの後をついて行った。


「ねえ、車とかないの?」


「あるよ・・・車だって電車だって、バスだってあるし、馬車も走ってるわよ」

「ただ、私は車は持ってないだけどね」


「あ、そうなんだ・・・馬車は分かるけど、こんな風情だから機械的な

乗り物なんてないのかと思った」


「バカにしてる?」


「そんなことないよ」

「こう言う世界には、それなりのイメージってあるからさ」

「先入観って言うの?」

「街並みとか見てると、古風だから文明は発達してないのかって思うじゃん」


「そう思うだろうけど意外と文明発達してるんだよ」


「ところでこのまま歩いて学校へ行くのかな?」


「バスで行く」


「ほら、そこにバス停があるでしょ」


よく見たら、人間界と同じような停留所があった。

標識には「crâneville」って書いてあった。


「あの標識の文字だけど・・・なんて読むの?」


「クラヌヴィルって読むんだよ、ここは(髑髏の街)って言うところなの・・・」


「どくろ?・・・わあ、不気味な町の名前だね」


「ちなみに、この町外れのラ・モール・・・「死神の館」って店が私たちの

溜まり場・・・」


「そんな名前ばっかだな・・・」


「バスが来るまで、ここで待ってよう・・・」


好人とルシルはバスを待つことにした。

ところが、いくら待ってもなかなかバスが来ない。


好人は停留所の標識に書かれた時刻表を見た。


「あのさ、今何時?」


「どうだろ・・・8時くらいじゃないか?」


「そしたら、とっくに時刻オーバーしてるけど・・・バス本当に来るの?」


「まあ、まず時刻通りになんか来ないから・・・」


「学校、遅刻としちゃわないの?」


「いいの・・・遅刻なんて日常茶飯事」


「いいかげんなんだね」


「ん〜まあ、それがこの世界では普通だから・・・」

「バス同士ですれ違ったりしたら、バス停めて運転手同士が窓から顔出して

なにか、くっちゃべってるから・・・だから時刻通りに来ないんだよ」


「でも、誰も文句言わないしね・・・」


そんな会話をしているところへ、すごい爆音で一台のバイクが近ずいて来た。


「お〜い・・・ルシル・・・」


「おう・・・バラキエル、おはよう」


ルシルの名前を呼んだやつは、髪の長いキミの悪い男だった。

好人とルシルの前に止まって、挨拶しといてバカうるさいバイクに乗って去って

行った。


「誰、あれ?」


「同級生・・・」


「って言うかダチ・・・バラキエルって言って、あいつも悪魔だよ」


「他にベルゼブブってやつもいるし、アグラットってのもいるし

アルダト・リリーってのもいるし、エイシェト・ゼヌニムってのも私の親しいダチ。


「み〜んな悪魔だよ」


「学校って、さっきの人みたいな個性的な人がたくさんいるわけ?」


「人じゃなくて悪魔・・・」

「あ〜でも、怖くないからね・・・みんないいやつばかりだから」


「名前が横文字だから、すぐには覚えにくそうだな・・・」


「覚えなくていいよ・・・そんなに親しくならないだろ?」

「でもアグラットとアルダドとエイシェットには手を出すなよ」

三人とも女の悪魔だからね・・・しかもみんな、まあまあ可愛いし・・・

私ほどじゃないけどな・・・」


「もし誰かと浮気したら殺すからな・・・」


「いや〜僕はルシルだけだから・・・浮気なんてとんでもない・・・

まだ死にたくないし・・・」


「悪魔の社会は人間界みたいに甘くないからね・・・不道徳なことして

許されると思ったら大間違い」


「うちの学校の校長は、生徒と不倫して、奥さんに殺されかけたからね」

「その不倫した校長がサタンって悪魔」


「お〜サタンなら僕も知ってる・・・超有名じゃん」

「もとはルシファーって天使だったんだよね」


「よく知ってるな・・・ルシファーは神様に逆らってカオスに

落とされて堕天使になったんだよ・・・で今はサタンって名乗ってるわけ・・・」


「この街にやってきて今は学校の校長・・・無難なところに落ち着いたわけだよね」


「そうなんだ・・・じゃ〜ここにも神様はいるの?」


「いないよ、神様なんて・・・いたら迷惑だよ」


「神様に会いたかったら天国へ行けばいいし、可愛い天使もいるらしいからな」


「まじで?・・・天使なんているんだ・・・」


「鼻の下伸びてるぞ・・・」

「女なら誰でもいいのか?」


「可愛い天使なんて言うからだろ・・・」


「そうか、すまんな、ブスな天使もいるかもしれないもんな」


「いや・・・そういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・」


「って言うか、天使にだって手を出したら殺すからな・・・」


「そんなことしないよ、どうやれば天国へ行けるかも知らないんだぞ」


そんな話をしてると20分遅れでバスがやってきた。


「ほら来たよ、バス」


ルシルの矢印みたいな尻尾がやってくるバスを指した。


「便利な尻尾・・・」


好人は感心した。


見るとロンドンバスみたいな二階建てのバスがやってきた。


車体の色は、悪夢の街に似つかわしくないサイケデリックなめちゃ派手な

バスだった。

なんかのキャラがボディのいたるところにラッピングしてあった。


「派手なバスだな」


「バスによって違うんだよ、ああいうのが好きなバスもいるし、何も入ってない

シンプルが好きなバスもいるしな・・・」


「って?なに?、あれって宣伝のためにやってんじゃないの?」


「運転手が趣味で・・・好きでやってるんだよ・・・」


止まったバスの行き先表示を見ると終点が「混沌の街行き」になっていた。


二人はバスに乗りこんだ。


「混沌の街なんて街があるんだ・・・どんなところなんだよ」


「あるよ・・・いろりろ」

「暗黒の街に、裏切りの街、悲しみの街に、憂鬱の街、陽炎の街に、蜃気楼の街」

「沈黙の街に、黄昏の街に、忘却の街に、ため息の街ってのもあるよ」


「なんか行きたくなさそうな名前の街ばかりだな」


「まあな・・・向日葵の街とか菜の花の街なんて似つかわしくないだろ?・・・

だからだよ」


車内は他の客もいるのかと思ったら、貸切状態だった。


「誰も乗ってないんだけど・・・だから赤字なんだ・・・」


「あ〜乗ってるには乗ってるけどね、好人には見えてないだけだよ 」


「ここには透明なやつもいたりするからね」


「透明人間ですか?」


「人間じゃないけどね」


「中には誰かに姿を見られたくない悪魔もいるんだよ」


つづく。

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