第17話 守りたかったもの(8)

 穴守花咲は、手錠のせいで両耳を塞ぐことはできなかったが、顔を背け目を瞑り、眉間に深くしわを作り、聞き入れることを拒んだ。


「穴守彩芽さんはどういう訳か、三田園さん殺害の詳細は立て板に水の如く全てを話してくれました。一方で、蓮華荘での首切り殺人については未だに一切、口を割ってくれないのです。何故なんでしょうね」


 そう言ったのち、しばらく静まり返った取調室に、ノックの音が響く。馬田が返事をして、穴守花咲に一言断り席を外したが、書類を手にしてすぐに戻った。


「お待たせしました。今、大事な書類が届きました。あなたに対する逮捕状です」


 驚いたまなこが馬田を向く。馬田は意に介さず安堵を込めて言った。


「午前中に申請していたのですが、少し時間がかかっていたので、もしかしたら許可が下りないかもしれないと心配していたんです。良かった。これで、任意ではなく、あなたの取り調べができます」


 馬田とは逆に、穴守花咲の頬から血の気が引いて青みが差す。


「逮捕状って……なんの……」


「罪名は、殺人罪。蓮華荘首切り殺人事件において、浮田弘樹さんと柳瀬昂輝さんの首を切り殺害した罪です」


「ちょっと待ってください! じゃあ、今の事情聴取は!? 姉についての取り調べじゃないんですか!? だって、私はそう思って!」


 ガタンと椅子が床を打つ。


「すみません。あなたを誤解させるような言い方をしてしまって」


 馬田は、肩を竦めて申し訳なさそうに言う。


「あなたの口から正直な話が聞きたかったんです。あなたは被疑者の立場になると、よく嘘を吐くから――。もしあなたが騙されたと思い、これまでに話したことが違法収集証拠だと訴えるなら、今のが証拠に使えなくても構いません。あなたに聞かせてもらったのは、姉を探し始めた理由だけで、それはむしろ、あなたに有利に働く証拠でしかないのですから。もちろん、あなたの同意があれば、証拠として採用することもできますが」


 穴守花咲は、馬田の言うことを理解しつつも、同意するのは腹立たしく、唇を噛んだ。

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