第9話 骨の在処(6)
馬田譲は、現地で生吹に会ったら挨拶をしようと思っていたが、彼女は人骨を持って弟と研究室に戻ったと聞かされた。急いでもらえるのはありがたい。成川と情報を共有し、穴守藤吾の寝室や必要な捜査をひと通り終え、自身もとんぼ返りで警察署へ戻る。
捜査に忙殺されて、午前中の穴守彩芽の取調べに代役を立てるのを忘れていたが、一ノ瀬が代ってくれていた。『穴守花咲の死体遺棄容疑について聞きたいことがあったからだ』と先輩刑事は言うが、もちろん馬田を気遣ってのことだろう。すみませんと言って、出勤してから初めて自分の椅子に座った馬田の胸に、一ノ瀬が缶珈琲を突き付ける。
「いい加減少し休め。死ぬぞ」
「はい。ありがとうございます」
「穴守花咲への身体検査令状と鑑定処分許可状は取っておいた。必要性を説明するのに苦労したよ。指紋だけでいいだろと言われてな」
「それでもねじ込んでくれたんですね。さすが『情けの一ノ瀬』」
「この場合、情けは関係ないだろ」
「そうかもしれないです。でも、ありがとうございます。最後の切り札なんですよ、それ」
午後も、穴守彩芽の取調べを一ノ瀬が代行すると言い、妹の花咲の取調べは明日だという。馬田譲はパソコンに向かって座り、久しぶりに珈琲を味わう時間が取れた。
夕方遅くに生吹から電話があった。解剖学的な所見に基づく復顔が仕上がり、これから蒼が二枚目を描き始めるところだという。急いでもらった礼を言い、今日は帰ってその絵を受け取りたいと伝えた。
馬田譲はデスクに両肘をつき、組んだ手に額を当てる。
穴守藤吾は今日も明日も、成川の尋問を受けるだろう。奴には自分のしたことを洗いざらい吐いてもらう。俺は明日の午前中に、黒岩しのぶに復顔を見せて、今日見つかった人骨が黒岩菖蒲のものかどうかを確かめる。もしそれが黒岩菖蒲だったなら、午後は穴守花咲と真っ向勝負だ――。
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