第5話 骨の在処(2)

※三田園さんの名前を10/2 三田園玄葉さんから三田園真実さんに変更しました。

 (見たその現場 → 見たその真実への変更となります)

―――――


 馬田譲は、再び黒岩しのぶの病室を訪れた。穴守彩芽に託された手紙と、蓮華荘にあったはずの黒岩菖蒲の遺骨について話を聞かなくてはならない。


「おはようございます。ベッドで休んでいなくていいんですか?」

 黒岩しのぶは、花瓶を棚に運んできたところで馬田に声を掛けられ、振り向いて微笑む。

「あら、またあなた? 見て? 今朝一つ、蕾が咲いたのよ。今、花瓶の水を取り替えてきたの」

「綺麗に咲いていますね。山茶花の花言葉は『困難に打ち勝つ』だそうですよ。他の花の咲けない冬に、花を咲かせるからだそうです」

「そう。詳しいのね」

 黒岩しのぶは、咲いた紅い蕾を愛でて、ベッドに入り、半身を起こして刑事に話しかける。

「ねえ、聞いて? あなたのことをよく知らない人がね、『毎日お見舞いに来てくださるなんて、いい息子さんですね』って言うのよ? なんて言おうか迷って、『息子もいいわね』って言ったら、不思議そうな顔をされてしまったわ」

 楽し気に笑うが、笑顔に力はない。

「刑事だとは、なかなか言いにくいでしょうからね」

「そうじゃないわ。あなたが息子っていうのも、悪くないと思ったのよ」

「それはまた、悪い冗談ですね」

 黒岩しのぶは、ふふと笑い、深く息を吐く。


 どうぞ、と椅子を勧められ、馬田は目礼して丸いパイプ椅子に座った。

「今日は何の話?」

「穴守彩芽さんが、犯行を認めました」

「そう……。蓮華荘で起きた事件の?」

「いいえ。あなたもご存じのはずです。三田園真実さんの殺害。穴守彩芽さんから、妹の花咲さん宛の手紙を託されましたね。その時のことについて聞かせてくださいませんか」

 黒岩しのぶは後ろめたそうに口を開く。


「あの子が転居したいと相談してきたのは突然のことで、すぐに用意できる部屋はあそこしかなかった。手紙は、引っ越しの手伝いをしている時に受け取ったの。読んでしまったことは本当に申し訳なかったわ。突然の転居に、初めて送る妹への手紙。何かあったに違いないと思ったのよ」

「手紙に描いてあった地図の示すところへ行ったんですね」

「ええ。骨というのが、菖蒲のものかもしれないと思ったら、行かずにはいられなかったわ。でも違った。嫌な予感はしていたの。何年も前の遺骨なら、あんな臭いがするはずないもの。近寄らずに立ち去るべきだった。暗い穴の中で横たわる腐敗し始めた人の体を見てしまったら、恐ろしくて。精神的に参ってしまったのね。それ以来、聞こえないはずの音が聞こえたり、見えないはずのものを見るように」

「それで入院を」

「ええ」

「手紙を渡した後は」

「蓮華荘に戻りました。妹さんに手紙を渡したことを伝えて、引越しの手伝いの続きを」

「その時、黒岩菖蒲さんの遺骨を持ち出しませんでしたか」

「持ち出す? まるで蓮華荘にあったみたいな言い方ね。菖蒲の遺骨、あの子が持っていたの?」

 ここで、持っていたと言ってしまったら、この偽りの親子は、どうなってしまうのだろう。

「……私は、あなたがお持ちなのかと思ったのですが」

 黒岩しのぶは残念そうに首を振る。

「どこにあるのか、私の方が知りたい。もし私のところへ戻るなら、ちゃんと納骨して供養したいと思っているの。刑事さんは忙しいでしょうけれど、もし見つかることがあったなら、私に返してくださいますか?」

「ええ。最善を尽くします」

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