第4話 骨の在処(1)
『真っ当な人間が廃人になっていくのを見るのが楽しい』
穴守藤吾を訪れたタクシー運転手は、過去にそう供述していた。
穴守温泉から出た後、コンビニの駐車場に止めたところで、奥山が窓を叩いて警察手帳を見せると、タクシーは急発進して逃走を図った。田辺による追跡と、通報を受けて応援に駆け付けたパトカーにより、男は間もなく逃げ切ることを諦めた。
タクシーからは覚醒剤が押収され、警察の尋問に対して販売目的で所持していたことを認めた。男の名は兼松善人。四十三歳。覚醒剤取締法違反の常習犯である。警察署での取り調べは成川が行い、穴守藤吾との関係についても洗いざらい吐かせた。
成川は、兼松の発言をパソコンに入力して印刷すると、馬田のデスクに叩きつけ、「あんな
馬田は、成川の置いて行った書面を手に取る。やっと一息ついたところだったが、珈琲を一口含んで書面に目を走らせると、口の中が渋くなりそれ以上飲めなくなった。
「藤吾さんはね、俺の一番のお気に入りだよ。芸術的って言ってもいいくらいの落ちっぷりでさ。あんないい人が
「藤吾さんはね、口封じのつもりなのか、支払いのつもりなのか、自分の娘と俺を一緒の部屋に残して行ったこともあったよ。あの子の名前を覚えてる。彩芽ちゃん。あの子もすごく可愛かったよね。さすが藤吾さんの子って感じでさ。花咲ちゃんもそうだ。藤吾さんは俺を共犯だと思ってる。でも言っとくけど、俺に強姦の罪はないからね。まず、趣味じゃない」
「どっちかっていうと、俺は藤吾さんの気を引きたくてさ。むしろあの子たちから藤吾さんを引き離したかったんだよね。だから何度か手を貸したこともあるんだよ? 彩芽ちゃんには客の忘れ物だと言ってスタンガンをあげた。藤吾さんに渡してって言ったけど、渡すわけないよね。一度だけ、あの子が藤吾さんに使ったのを知ってる。その傷はまだ残ってて、見る度に愛しく思うよ」
「でも彩芽ちゃん、あんな怪我しちゃって、可哀想だったよね。綺麗な顔だったのに。だから娼館建設の資金を奪ってあげたし、記事を書いて社会に告発もしたよ。そっちはただのオカルト記事としてしか扱われなかったけどね。でも、客足が増えた分、虐待する時間、減ったんじゃないの? よく知らないけどさ」
「いい加減、姉貴の影を追うのやめて俺にしなよってずっと言ってきたのに、ちっとも言うこと聞いてくれないから、俺ももういいかなって。藤吾さんはね、あの人はもう何人か人を殺してるよ。たぶんだけどね。それも俺のせいなのかなあ。昔、寝物語で死体の処理方法とか適当な話をしたことがある。死体は土に埋めるよりも野ざらしの方が早く骨になるんだよ、とか色々。それを実際にやっちゃうところが、藤吾さんの人とは違うところだよね」
穴守彩芽、兼松善人、両名の証言から、穴守藤吾に捜査令状が発行され、翌日、穴守温泉の家宅捜索が行われた。
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