第39話 最奥の少女(7)

 犬の怪死事件は、弟から聞いてはいたが、こんな形で事件に結び付いているとは思ってもみなかった。黒岩菖蒲を殺した犯人は、塩野武男を殺した人物と同じ。第一の被疑者は穴守藤吾。


「刑事さん」


 他の事を考えていたのを見破るように、穴守彩芽が馬田を呼ぶ。


「花咲さんは死体遺棄容疑で逮捕されたということですが、それは違います。彼女は私の指示に従っただけ」


「指示ですか。どんな指示ですか?」


「『夏が終わったら、あの穴に来てください。そこに骨の模型を置いておきます。あなたの役に立ててください』 この指示は手紙にしたためました。花咲さんが場所を知らなかった時のために、簡単な地図も書きました。手紙は、母に頼んで花咲さんに渡してもらいました」


「母が入院したのは、そのすぐ後のことです。きっと、手紙の中身が気になって、読んでしまったのでしょうね。地図なんて描かなければよかった」


 穴守彩芽は後悔を口にして、話を元に戻す。


「三田園さんの遺体は、夏が終わる頃には骨になっている。あやちゃんの時も、そうでしたから。遺跡が発見されても、殺人現場になってしまえば建設は中止にできる。わたしはそう考えましたが、花咲さんに骨が本物だとは知らせていません。彼女はあの骨をレプリカだと思っていた。作り物の骨を動かしただけ。それでも死体遺棄容疑は、確定なのでしょうか」


 馬田はこの発言を慎重に分析した。


 一つは、穴守花咲と直接会ったことはないという主張。もう一つは、穴守花咲の行為に死体遺棄罪は適応外だという主張。


 模型とは、あまりにも苦しい言い訳だが、いざ法廷で『本当に模型だと思った』と主張されれば、簡単に覆せるだろうか。『建設中止のために使ってください』とでも書いてあれば別だが、『役に立ててください』だけでは、長瀞遺跡に関して役立てるという意味だという主張が出来てしまう。現に、穴守花咲は長瀞遺跡発見を促すような行動もしている。


 さらに言えば、これを以て否定する内容は、死体遺棄容疑だけではない。蓮華荘の二件の首切り殺人。自分と面識のなかった妹は、首切り殺人にも関係がない。穴守彩芽は、同時にそう主張しようというのだ。

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