筋肉お化け

単三水

筋肉お化け

俺は今まさに、寝ようとしていた。時刻は午前二時、言うなれば丑三つ時である。布団に身を包みいざ寝ようとしてリモコンを取ろうとしたその時、違和感が襲った。身体が動かない。今はうつ伏せで寝ているのだが、何かが背中に乗りながら身体をロープで縛られているような、そんな感覚だ。これは所謂、金縛りというものだろうか。まだ明かりも消していない。どうする?このまま寝るか?知らぬが仏という言葉もある、顔も見ずさっさと寝てしまった方がトラウマにもならない。だが、俺は好奇心に負け、目をつむってゆっくりと横を向く。背中までは流石に見れないからだ。覚悟を決めて目を開けた…


そこには、上腕二頭筋が浮いていた。


「…は?」

上腕二頭筋が浮いていた?この文章だけでも頭に入らないぞ??というか何で背中に乗られてる感じなのに横に居るんだよそこもおかしいだろうが。俺が混乱のあまり比較的どうでも良いことを考えていると、

『うらめしや…』

上腕二頭筋が喋った。

「…え?」

喋った?上腕二頭筋って喋るんだっけ??とまた混乱していると、上腕二頭筋はこちらに向かってきて、

『うらめしやァァァァ!!!!』

俺の頭を思い切りぶん殴った。

「痛ってぇ!?!?!?」

お前幽霊じゃねーのかよバチボコに物理攻撃してくるじゃねぇか!?

『恨めしい…恨めしい…お前が筋トレをしないせいでどれだけの筋肉がこの世に生まれることもなく犠牲になったか…恨めしい…恨めしい…』

「えぇ…」

とりあえず寝た。多分これは頭のおかしい夢だ。インフルエンザの時でもこんな夢は見ないが多分これは夢だ。よし。


翌朝。

『何で無視したん?』

「いやノリ軽っ」

どうやら夢ではなかったらしい、昨日の上腕二頭筋が話しかけてきた。

『だって怖がってくれなかったし…あ、自己紹介遅れました、上腕二頭筋のお化けです』

うーむやはり意味が分からない。

「何でお前朝に居んの?お化けだよな?」

『筋肉パワーでどうとでもなる』

「昨日殴ってきたよな?お化けだよな?」

『筋肉パワーでどうとでもなる』

「どこから喋ってんの?」

『唇お化けを連れてきている。彼も筋肉お化けの一員だ』

上腕二頭筋の後ろを見てみると、確かに唇が浮いていた。そこは筋肉パワーでどうとでもならなかったのか。

『さぁ!!筋トレをしろ!!それで我らは成仏できるのだ!!!』

「嫌だけど」

マジでやだ。

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