第15話 解

神奈川上空五十キロメートル ポッド内


「シスル、直ぐに銀の所に乗り込もう! 作戦はどうする?」


「そうだなぁ…。電話の女は、黒狼のことも私のことも、恐らく我聞から聞き出して知っているのだろう。少し用心しといた方が良さそうだな。私たちは女の情報を何一つ持っていない。部下や仲間もいるのかも知れない。銀の最後の位置から今は移動しているのかも知れない。それらを先ずは、ひとつずつ消していこう」


「アカシャ、今から調べるデータは、全て槙島の方へも送ってくれ。先ずは、銀の最後の位置のスキャン映像を出して、敵の位置、人数を割り出してくれ」


「はい、シスル様。それではスクリーンをご覧ください。館林様の最後の発信源である埠頭倉庫内及び周囲の状況をスクリーンに映しています。先ず倉庫内の中央奥に恐らく館林様が椅子に縛られて、下を向いて眠らされているようです。その向かって右一メートル横に女がいます。そして女の後ろに二人、倉庫の中に入って直ぐのところに左右に三人ずつ、倉庫前に左右に三人ずつ、倉庫裏の小さい通用口に二人の計十六人が配置されています。倉庫の正面は海側となっており、接岸する船舶や周囲五キロには、停泊や曳航中の船舶はなく、怪しい艦艇なども見られません。配置されている者達は全て男性で、黒いスーツを着てサブマシンガンで武装されています。女は黒いパンツスーツに赤いヒール、顔に角のような物がある黒いマスクをしています。最後に監視カメラですが倉庫建物の周囲に六台、倉庫内に四台のカメラが設置されています。その設置場所はここです」


 アカシャは、敵の人員配置と監視カメラの設置場所、スキャン不可能なバックドアと地下施設などをそれぞれ指摘と同時にスクリーンにクローズアップさせて解析説明をした。


「これで後は女の正体だけだな。女は恐らくその倉庫に俺らを誘き出すつもりなのだろう」


「シスル様、倉庫内に左の通用口と別にもう一つ右奥に扉が有るのですが、スキャンが出来ませんでした。高性能シールドによって覆われた地下室がある可能性が高いと思われます」


「ありがとう。アカシャ」

「黒狼、女からの連絡を待って、誘き出されたフリをして、奴らの倉庫内へ入ってみよう。中と外の男達は、恐らくマニピュレーター対策をしているだろう。私達が倉庫に入ったら、外の表と裏の八人を白城達に捕獲してもらおう」


「高性能シールドされた地下室は、何のためなのだろう? もしかしてそこにも他に仲間達が隠れているのだろうか?」


「よほど知られては、困るものがあるのだろうな。それと黒狼、これを預けておく」


「何? ポッド? 俺使えないよ」


「アカシャ、頼む」


 シスルは、黒狼に黒い球を手渡し、アカシャを呼ぶと、黒狼の手に持った黒い球が一瞬にしてシスルと同じ頭にヘッドセット、顔には目元のマスクを着けて、それ以外の全身を黒いロングジャケットとスーツで覆われた。


「うゎ! ぁぁ!」


「そのスーツは、黒狼の身体の動きに合わせて自由に動かすことができる。そしてどんな銃弾や砲撃、爆発、火災やミサイル攻撃にも耐えられる。顔や頭部を狙われることが有れば、アカシャがポッドを操作して顔、頭の保護をする。その時、中から外は見えるから視界がなくなることはなく、顔が覆われていても外との会話は普通に話すことが可能だ。そのスーツを着て、私と敵の倉庫内まで一緒に行き、暫くは敵の指示通りに動いてくれ。私は出来る限り、女から情報を聞き出す。そして私のキーワードの言葉で黒狼は、倉庫内に入った左右の六人を捕獲してくれ。私は銀を救助して女と後ろにいる二人の男を捕らえる。キーワードは〝アカシャ〟だ」


「黒狼、安心して敵を捕まえてくれ。よろしく頼む」


 黒狼のスーツ内からアカシャの声が黒狼に聞こえた。


「おお、このスーツからアカシャの声が聞こえる」


「その声は私と黒狼にしか聞こえていない。外の敵にアカシャとの会話は、漏れることはなく、聞かれることはない。アカシャは、人間の脳内信号や光より遥かに速い、インフレーションと同等の速度で多くの情報を分析、予測して、それを処理して伝達対処することが可能だ。黒狼のスーツのアカシャには、黒狼の指示通りにするように伝えているが、次元転移やインフレーション速度での移動以外は、ポッドの大半の機能をアカシャが制御してくれる」


「これは凄いな! アカシャ、お前凄いやつだな!」


「恐れ入ります。…てへ」


「……てへ?」


「そしてアカシャは、本当は少しお茶目だ」


「よし! 了解! これで準備は万端だな」



 そして一狼の携帯に銀からの着信番号が画面に表示された。


【どうだ、いい返事はできそうなんだろうな】


「ああ、それでどこへ行けばいい」


【お前と黒尽くめの女の二人で、十六時半、川崎の埠頭倉庫まで来い。余計なことを考えるなよ。コイツがどうなっても知らんぞ】


「ああ、分かった」


ツーーーーー。


「よし、黒狼、そろそろ行こうか。それと白城達にも連絡しといてくれ」


「分かった」




十六時二十五分 川崎のとある埠頭倉庫


「坊ちゃん、私たちも配置待機しています。シスルさんのキーワードで表の六人、裏の二人を捕縛します」


「白城、それでは俺らもこれから倉庫に入る。合図までは、悟られないように気をつけてくれ」


「承知しました」



 シスルと一狼は、倉庫近くの敵から見えない右方向に着陸して、シスルがポッドを回収するとそこから倉庫まで二人は歩いて向かった。


「よし、お前ら、そこで両手を頭の後ろに組んで待て」


 倉庫右に配置された三人のうちの一人がシスル達にそう命じると、シスル達に男二人が近づいてきた。男達は皆が揃って黒いスーツにサングラスをかけ、短髪であった。そして全員が肩からサブマシンガンを掛けていた。男達は身長の高さに違いはあったが、それ以外の見分け、区別は出来なかった。それは如何にも映画やドラマで見る悪役の手下という感じであった。男二人はシスル達に近づくとボディチェックを行った。


「ダメだ。マスクも取れないし、頭についたカチューシャのような物も外せないです」


「何だこの服は。袖も捲れないし、ポケットも付いてるが、中に手が入らない。その上着を脱げ」


「これはコスプレ衣装だから、全部繋がっていて脱げない。裸になれとでも? こんなピチピチの服なんだから、上から触れれば、武器の有無ぐらい確認できるだろう」


 男はシスルがそう言うと無線で指示を仰いだ。

 何やら指示を受けた男達はシスルと一狼の背後に周り、銃を背中に突きつけて、前に進むように背中を押した。


「よし、前に進め」


 倉庫の片側四メートル程の正面扉の前まで来るとその扉は、シスルと一狼が横に並んで通れるだけのスペースをとって、ゆっくりと静かに左右に開いた。


「よし、前に進め」


 再びシスル達は、後ろの男に銃口で背中を押された。

 中に入ると後ろの男達は、外の警備に戻り、倉庫の扉はゆっくりと静かに閉まっていった。

 そして中にいた左右の男が交代して、シスル達の背後に周り、銃口を背中に突きつけた。中の男達も外の男達と同様の服装にスタイルだった。


「よし、倉庫の中央まで進みそこで止まれ」


 男達に背中を銃口で押されたシスル達は、頭の後ろに手を組んだまま倉庫の中央へと歩いた。


 広い倉庫内は、明るく、左右の警備の男達と正面中央奥に椅子に縛られ眠っている様子の銀とその右手にショートボブの女とその後ろに警備の男二人が立っていた。倉庫の両サイドには、ここでパーティーでも開かれるのだろうか、クロスの掛かっていない幾つかのテーブルやその上に椅子が積み上げられていた。倉庫内の人員配置は、アカシャのスキャン映像で見た人員配置と一つも変化はなかった。それを確認するとシスルは、ショートボブの女に向かって口を開いた。


「お前は誰だ」


 するとショートボブの女はシスル達の立つ倉庫中央へとヒールに音を響かせながら歩き出した。


「おいおい、何だ、未だ子供じゃないか」


「銀! 大丈夫か!」


 一狼が銀に呼びかけても、銀は椅子に縛られ下を向いたままであった。


「そしてお前が、黒狼か。電話の声とは違って、お前も子供だな。それと何だ? お前らのその格好は。何のコスプレ何だ」


「おい! お前は誰だと聞いている」


「聞かれたから答えてやるが、私はナンバーシックスだ。お嬢ちゃんがマニピュレーター使いか? 私には効かないよ。そしてお前ら大変なことをしでかしてくれたな。我聞だけでなく、嶺屋や誘拐犯もお前らの仕業だな」


「だから何だ!」


「君たちのような子供は、利用価値が高いから殺すようなことはしないが、少し下の部屋で大人しくしていてもらおうか」

「ハチ! キュウ! コイツらに手錠を掛けて此の椅子に座ってるやつと一緒に地下室に放り込んでおけ」


 ハチとキュウは、『シックスの手』と名乗った、シックスの後ろにいる二人の男のことであった。

 シックスが二人にそう命じるとシスルと一狼の背後に周り、頭の上で組んだ手を体の後ろに回して手錠を掛けた。

 シスルと一狼は、それに抵抗することなく、男の言われるままに地下室へと向かった。



 地下室は、倉庫内の半分ほどの広さがあり、壁は全て血のような赤で塗りつぶされていた。ちょっとした小さなホールのようでもあった。

 幾つかの映画館の客席のような席が数列並び、その前方中央に二段上がった小さいステージが設けられていた。

 室内には、照明が殆どなく薄暗く、壁際の床と天井に赤く血塗られた壁を照らす間接照明が付けられていた。天井の照明は唯一、ステージ上のみであったが、ステージは照らされていなかった。

 そしてステージを上がった中央の壁に白く魔法陣のような円の中に逆五芒星のマークが書かれて、それを間接照明によって浮かび上がらせていた。


 シスルと一狼は、そのステージの正面の客席に座らされた。

 その後、ハチとキュウの二人は、シックスと一緒に地下室に姿を見せて、男二人で銀を抱えてシスルの隣に座らせた。シックスは、ステージ上に上がり、ハチにスクリーンを下ろすように命じた。


「今からお前らに楽しいものを観せてやる。これからお前らがどうなるか想像を膨らませるがいい」


 シックスがそう言うとスクリーンに映像が流れ始めた。

 映像は始めにセブンシールのロゴが表示され、次に世界地図が表示された。その地図の主要都市に赤い印が点滅を始め、その点滅が徐々に点から円となり、更にその円が大きくなり、その地域を塗りつぶしていった。それは最後に世界地図の全てを赤く染めた。


 次に映像に場所は何処かは分からないが、薄暗い倉庫のような所で、数百人いるだろうと思われる子供達が映された。その子供達は、全員膝を抱えて頭を伏せて座っていた。

 場面は変わり、場所はここと同じかどうかは定かではないが、魔法陣のような円に逆五芒星が描かれたステージの中央に白いクロスの掛かったテーブルが置かれ、そのテーブルの上に十七、八歳の少女が白い布を被せられて寝かされていた。そのテーブルの左右には、白い頭の尖った布で、頭から全身を覆った大人ぐらいの身長の人物が立っていた。そしてそのテーブル上をよく見えるように台の上に登った六歳から十二歳位の男女の子供達が周りに立たされていた。子供達は、何かの暗示に掛けられているのだろうか。黙ってじっとテーブルの上の少女を見ていた。

 そしてテーブルの横に立っていた白い二人の人物は、手に手術用か何かの電動工具のような物を片手に持って、もう片方の手で少女の左右から少女に掛かった白い布を捲り上げるように腕を掴んだ。


「おいおいおいおい、何をするんだ!」


 一狼は、この先に起こることを何となく想像できていた。


 少女の腕を掴んだ白い布を被った人物は、その腕に電動工具を当てようとした。


「うぅぅぅわぁぁぁ! やめろーー!」


「うるさい奴だな。黙って見てろ!」


「黙って見てられるか! お前ら何してやがんだ!」


 テーブルの少女の腕は、血飛沫を周りに飛び散らし、その腕は数分で肘から切断された。

 少女は恐怖で目を大きく見開いているが、叫び声ひとつ上げなかった。それは周りで台の上に立って見ていた子供達も同じであった。ただその子供達の表情から明らかに死の恐怖が感じ取られた。


「お前、なんで黙らない。お前もマニピュレーター使いか?」


「ごちゃごちゃ喧しい! なんて事するんだ! お前ら人間じゃねぇ!」


 一狼の怒りはピークに達していた。


「黒狼、今は我慢してくれ」


 シスルは、一狼を諫めた。


「シスルは、これを見て何とも思わないのか!」


「そう思うか?」


 一狼は、少し落ち着きを取り戻した。


 映像は更に続き、テーブルの横にいた白い布の二人は、次に少女の足を掴んだ。そして腕と同じように血飛沫を周りに飛ばしながら、膝から下を切断した。

 白い布の二人の体は、少女の血で赤く染まり、そのテーブルの周囲は夥しい出血によって血溜まりができていた。

 白い布を被った二人とは別に四人の同じ白い布を被った人物がステージ上に現れ、テーブルごと手足を切断された少女をステージから外へ運び出した。

 台の上に立たされていた子供達の顔は、少女の血飛沫を浴びて、それでも目を見開いて、叫び声も上げずに恐怖で歪んでいた。

 ステージ上の白い布の二人は、次に注射器を取り出して、台の上に立った子供達の前まで行き、その注射器を子供達の目に順に刺して何かを吸い出している様子が映された。


 映像の場面は変わり、暗い部屋で、大型犬の犬小屋程の檻の中にステージ上にいた両手足を切断された少女が、その手足に包帯を巻いて四つん這いになって、床の皿から食事を動物のように口にしていた。


 そこで映像は終わった。


「この後、子供達をどうしたんだ」


 シスルが冷静にそう聞くとシックスは答えた。


「さぁ? どうなったかなぁ? 性奴隷になったか? パーツになるか? どうなるかは飼い主次第だろう」


 シックスは、まるで世間話でもするかのように、子供達のその後など気に掛けてはいない態度だった。


「お前らのことは、よく分かった」

「黒狼! 〝アカシャ〟の力を借りて直ぐに上の敵を捕縛してくれ。ここから白城に声が届いてないかもしれない。大至急頼む!」


 一狼は、シスルのその言葉で、両手に掛けられた手錠を引きちぎり、頭の先から全て全身が黒尽くめとなった。シスルもそれと同じくして、手錠を外して全身黒尽くめとなった。


「ハチ、キュウ、コイツらを捕まえろ! 殺すなよ!」


 シックスに命じられた二人は、一狼とシスルを取り押さえようとしたが、あっさり跳ね除けられ、一狼は物凄いスピードで階段を上がり倉庫内へと出ていった。



一狼は倉庫内に上がりながら、白城に連絡した。


「白城! 〝アカシャ〟だ!」


 地下室内のシスルの声は届いていなかった。


 倉庫の外では、アカシャがシスル達が倉庫内へと入ると同時に監視カメラと警報アラームを切っていた。白城達は、シスル達が倉庫内に入ると倉庫の表と裏側の屋根の上で待機していた。そして一狼の合図とともに一斉に、早川が倉庫裏側の二人を、白城が、倉庫表の右の三人を、そして左の三人を本庄と春日部の二人で取り押さえるために同時に屋根から飛び降りた。本庄と春日部で二人を倒し、もう一人の男を本庄が取り押さえようとしたその時、その男が発砲した。

 既に三人を倒した白城は、すかさず発砲した男の肩にナイフを投げた。男はナイフが肩に刺さり、それを本庄が取り押さえた。


「本庄! 大丈夫か!」


「大丈夫です! 大尉!」


「表側ミッションクリア! 早川、そっちはどうだ!」


「裏側ミッションクリア! 只今敵の捕縛中」


 白城達が倒れた敵の男達を縛り上げようとしたその時だった。倉庫内から複数のサブマシンガンが連射する音が中から響いた。



 一狼が飛び出した後、シスルはバーチャル・アウトで、二人の男の前に瞬間移動して、姿を現してはバーチャル・アウトを解除して殴り飛ばし、蹴り飛ばして男達をあっという間に倒した。


「き、貴様は何なんだ! 分身の術のように何人も姿を現し、どうやったんだ!」


 シックスの目には瞬間移動するシスルに姿が残像となり、何人もシスルがいるように見えていた。


「お前らは、何のためにこんなことをするんだ!」


 シスルは込み上げる怒りを言葉に込めて、また瞬間移動してシックスの目の前に現れた。


「ひゃーー!」


「さぁ、何のためだ! 言え! 言うんだー!」


 シスルは、そう叫ぶとシスルの全身は、黒から白へと色が変色していき、頭からは長さが三十センチある角が伸びた。


「あ、あ、貴方は、神か!」


「何を下らん! お前らは、悪魔崇拝じゃないのか!」


 すると上の倉庫内から複数のサブマシンガンが連射する音が聞こえた。


 シスルはそのままシックスに近寄り、シックスはシスルの身体に飲み込まれていった。


 シスルは、ハチとキュウの二人を両手で摘み上げ、地下室の階段を上がって行った。



 白城に合図を送った一狼は、そのまま物凄いスピードで倉庫内の中央まで出た。


「おい! お前ら! どこ見てやがんだ!」


 中にいた男達は外の様子の異変に気づきかけていた。そこへいつの間にか倉庫内中央に姿を現した一狼を見て皆が驚いた。


「お前、どうやって地下から出たんだ!」


 男の一人がそう言うと無線でシックスからの指示を仰ごうとした。 


「大変です! シックス! 男の方が地下室から出てきました。どうしますか?」


 無線は届いていなかった。その時、外から銃声がした。

 一狼は、六人いる内の一人の男の前まで瞬間的なスピードで移動し、その勢いで男を殴り飛ばした。男は倉庫の壁まで叩き飛ばされた。そしてその調子で他の男達も倒そうとした時、男達はそれを恐れて一斉に一狼に向かって発砲した。

 一狼は、暫し足を止め銃弾が身体に当たっても異常がないことを確認すると再び残り五人の敵を一人ずつ倒していった。それはそれほど時間のかかることでもなかった。一狼に当たった銃弾は、全て身体の中に飲み込まれた。


 一狼が六人全ての男達を倒した時、倉庫正面の扉が開き白城達が縛り上げた外の男達を連れて中に入ってきた。


「坊ちゃん、大丈夫ですか? お怪我はございませんでしたか?」


「ああ、大丈夫だ。ご覧の通り、全て片付けた」



 シスルが両手で男を摘んで地下の階段から上がってきた。

 シスルの身体は、いつもの黒尽くめではなく、真っ白だった。そして頭から二本の角が伸びていた。


「シスル? 何か?」


 シスルは、両手に摘んだ男を一狼の前まで投げ飛ばした。


「シスル、銀は? シックスはどうした?」


「銀はまだ地下室の椅子に座っている。白城、銀を連れ出してドライブイン昭和まで送ってやってくれ。シックスは、暗闇の牢獄に閉じ込めた」


 白城は、銀を助けに地下室に向かい、直ぐに銀を背中に背負って倉庫内へ戻ってきた。


「コイツらはどうする?」


「そいつらは動けないように全員縛り上げて此処に放っておく。そして警察を呼ぶ。地下室には、人身売買の映像や麻薬も二百キロあり、プラスチック爆弾や武器類が相当な量、保管されていた。それらの証拠がある」


「シックスは、どうするんだ?」


「私は………。私は、どうしてもコイツが許せないんだ…」


 シスルは、そう言うと全身が白く発光するように時折、ショートしたかのように点滅を始めた。


 その時だった。


 シスルの前に黒尽くめのシスルと同じ格好をした女が突然、姿を現した。それはシスルと同じ種族だと言うロドンだった。


「シスル様! それ以上は、お止め下さい!」


「何故だ! 私はコイツを許せない! 生きる価値はない!」


 シスルの身体からは、強烈な光が放たれていた。


「それは、貴方様がお決めになって良いことではありません。この世界の誰一人として貴方様や私達に命を奪う権利はございません。もうその女は半分死んだも同然です。例えそんな女でも、貴方様がその命を背負われることはありません」


「………うーん、よく分からない! 私の我儘では駄目なのか?………うーん、よく分からない………」


「そうなのです。…それで良いのです…」


 ロドンはそう言って光り輝くシスルを抱きしめた。

 するとシスルの身体は次第にその輝きを失い、全身の白さも黒く変化し始め、頭に伸びた角もそれに合わせて吸い込まれるように無くなっていった。

 ロドンに抱きしめられたシスルのマスクから涙が滴り落ちていた。

 そしてシスルの身体からシックスが流れるように放出された。

 シックスは、目が虚で何やら小さくぼやいていた。


「やはり神はいたのです………やはり神はいたのです」


「シスル様、以前私がお伝えしたように、一度アトラス王国へお帰りになられてください。少しは今の疑問が解けるかも知れません」


「…では、貴様が教えてくれれば良いのではないか」


「私には王族で在られますシスル様にお教えする権限がございません。何卒、アトラス王国へお帰りになられることをお聞き入れ下さいませ」


「…………少し考えたい」


「よろしくお願い申し上げます。間も無く警察がこちらへきます。私が呼びました。どうぞシスル様も皆様も早目にお引き上げ下さい。それでは、お先に失礼致します」


 そう言ってロドンは姿を消した。


「シスル、さあ、帰ろう」


 一狼の顔から全てのマスクが外され、シスルに近寄って、シスルの手を取った。


「白城、お前達もそいつらをここに放って引き上げてくれ。白城は車だろ、銀を送り届けてやってくれないか」


「承知致しました。さあ、皆んな帰ろう!」


「はい、大尉!」




 シスルと一狼の二人は、ポッドに乗り込み、倉庫の上空五十キロの地点で待機した。


 ポッドの中から倉庫の様子をスクリーンで見ていると倉庫が突然、大爆発を起こした。


「どうしたんだ! 何故、爆発を起こした!」


「何処からか無線により、地下の爆薬を爆発させたようです」


 アカシャが状況を説明すると一狼に白城から連絡が入った。


「大丈夫ですか? 坊ちゃん」


「ああ、こっちは全然、平気だ。そっちも大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。今、槙島から連絡が入り、倉庫の爆発直後に近くを飛んでいたドローンを撃墜したそうです。その高度と進路を見てもどうやら近くの海に投棄するつもりだったと思われます。これから私は、館林君を送り届けて、折り返し早川達とドローンを回収に行ってきます」


「白城、シスルだ。聞こえてるな。回収は私達でする。銀を送り届けたら、帰ってゆっくり休んでくれ」


「シスルさん、承知しました。それでは坊ちゃんをよろしくお願いします」


「ああ、それじゃ」


シスルと一狼は、槙島から送られた撃墜ポイントへポッドで向かい、海中でそれを回収した。

 ドローンは外国製で、その部品の一つに至るまでメーカーは不明だった。そして倉庫の爆発を引き起こしたと見られる起爆発信装置が組み込まれていた。

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