第7話 忍び寄る禍事(三)

《三月七日、妙行市黒岩川の川原公園で行方不明となっていた藤堂小百合ちゃん(八)が昨晩、五月一日午後九時二十分頃、市街道路で無事に保護されたと神奈川県警より発表がありました。なお同時に未成年者誘拐の疑いで、磯島隆平(三五)無職住所不定を現行犯逮捕しました。また男は容疑を既に認める供述をしているとのことです。》



黒菱タワー最上階 一狼宅


「白城、ダイニングにテレビ用意しといてくれたんだな」


 一狼は、ダイニングテーブルの椅子に腰掛け、ニュースを見ていた。


「はい、八十五インチですけど。小さい方がいいと言われてたので……」


 白城は、そう言いながら、キッチンで何やら調理をしているようだ。


「ああ、これぐらいで丁度良いよ」


「坊ちゃん、そろそろ昼にしましょうか?」


「あっ、そうだ。白城、もう一人分用意してくれないか?」


 そう言って一狼はテレビを消した。


「えっ! …まさかまたあのお嬢ちゃんでも来るんですか?」


「そうだ。昨晩、帰り道で、シスルを昼食に招待した」


「招待って…、そうなんですか? もうちょっと早く言ってくださいよ」


 白城は、調理の手を止めて慌しく冷蔵庫の中を確認した。


「デビルスターのこととか、今後のことを話そうかと思って…」


「そうですね。シスルの嬢ちゃんが言ってた人身売買組織の存在は、どうやら当たっているようですしね。館林君も『タダじゃすまさねぇ』と言って、相当怒ってましたね」


「そうなんだ。このまま放っておくと、銀や他のメンバーが突っ走ってしまうからな。早く作戦や方針を決めて皆んなに知らせなきゃならないんだ」


「そうですね。私も坊ちゃんの警護上、よく承知しておかなければなりません。…私も同席しても構いませんよね」


「ああ良いとも。一緒に話を聞いてくれ」




國學黒菱学園 中等科寄宿寮


 五十棲は、あれから実家に帰省することなく、寮で勉強の遅れを取り戻すべく、奮闘していた。同室の木原や他の生徒も実家に帰省して部屋は五十棲一人であった。これで暫くは嫌な思いをすることなく、勉強に励めると内心喜んでいた。


 葵に誘われて、買い物に出掛けて以来、時々、葵から何でもないようなことが、レインで送られてきた。

 五十棲は、嬉しかった。返信する時も最初は、あれこれと考えて返信していたが、今では特に深く考えることなく気軽に返信が出来るようになっていた。



『どう? 勉強捗ってる?』


葵からのレインだった。


『うん。何とか休み中にこれまでの遅れを取り戻せそう』


『そう。良かった。それでね、今度の土曜日夕食にご招待しようと思うのだけど、夕方から時間どうかしら? 勉強が忙しそうだったら、無理しないでね』


『ありがとう。喜んでお受けします。勉強の方は一段落してると思うので、大丈夫です』


『薊ちゃんもできれば一緒が良いけどなぁ。でも連絡先わからないし…』


『私も薊ちゃんの連絡先聞いてなかった。住所はどの辺か聞いたんだけど、地理に疎くて……』


『残念だけど、香織ちゃんだけでも、ぜひ来て頂戴』


『ありがとう。お願いします』


『良かった。じゃあ、また時間と場所は改めて連絡します』『バイバイ』


 香織も、『バイバイ』とスタンプで返信した。


「あれ? 昨日充電したばかりなのに……」


 スマホのバッテリー残量が僅かになっていた。


(明日、ショップへ行って見てもらおうかしら。それか機種交換もそろそろ良いかな)


「そうだ。お昼ご飯にしよっと」


 香織は、勉強机から席を立ち、時間帯を気にすることなく、食堂へと向かった。




黒菱タワー最上階 一狼宅 正午


「お坊ちゃん、お食事のご用意が出来ました。テーブルの方もこれからご用意いたしますが、宜しいですか?」


「ああ、もう来ると思う。用意してくれ」


 キッチの横にある執事、メイドの専用口から、メイド長の早川とメイドの本庄、春日部が入室した。


「失礼致します」


 そう言って三人は、直ぐにキッチンに入り、白城の手を止めた。


「大尉、テーブルの準備やお食事をお出しするのは、私達にお任せください」


 大尉とは、白城の傭兵時代、ワイルドキャット部隊の呼び名であった。早川は、そう言い白城の手に持つ食器を取り上げた。


「大尉は、どうぞお席におつきください」


「ありがとう。坊ちゃん、席はどうされますか?」


 ダイニングテーブルは、優に十人は余裕を持って座れる席があった。


「そうだな。このテーブルデカすぎなんだよな。いつも白城と二人だけの食事だから、こんな大きなの必要ないのにな」


 一狼は、そう言いながらテーブルの窓際の方へ行き、少し外の景色を眺めた。黒菱タワー地上四十一階の最上階の一狼宅からの窓から見る景色は、妙行市内が一望できる素晴らしい景色が見えていた。


「ここがシスルの席で、その向かい側に俺と白城の分を用意してくれ」


 一狼は、そう言ってシスルに窓側の席を指示して自分の席についた。


「はい、お坊ちゃま、承知いたしました」


 早川とメイド達は、手際良くテキパキとそれぞれの席に、クロスやカトラリーを用意し始めた。


「白城も席につけよ」


「はい、坊ちゃん」


 二人が席につくとメイドの春日部が悲鳴を上げた。


キャァ!


 春日部の悲鳴と共に、白城やメイド達も目を見張った。


 いつの間にか一狼が指定したシスルの席に、突然全身黒尽くめのシスルが現れたのだった。


 春日部は、前回シスルが訪問した時、セキュリティルームで槙島とメイド達でリビングの様子を見ていた。そしてシスルが突然現れたこともモニターでその一部始終を見ていたのだ。

 しかし実際に目の前に突然現れる様子はメイド達も白城も流石に意表を突かれたのであった。しかも、一狼が指定した席に。

 ここまで来ると科学で説明が付けられない超常現象としか思えなかった。


 いつものように黒いロングジャケットのようなものを羽織り、頭の先から手の指、爪先まで真っ黒ではあったが、目元のマスクとヘッドセットのような物を残して少女の顔と長い銀髪を現した。


「ヤァ、シスル。よく来てくれたね。ありがとう」


 一狼は、シスルの登場シーンやこれまでの不可解な黒いバイクとその異常な程に高度なドライビングテクニック、瞬間移動、マニピュレーターなる能力に、何故かそれほど驚くことはなかった。これには一狼自身も気づいておらず、全てが自然に受け入れられていた。


「また驚かせてしまったようで、すまない。これしか来方がわからないもので」


「いやいや、シスルさん、普通にインターホンを鳴らしてエレベーターで玄関まで上がって来てください」


 白城は、そう言いながら一狼の横の席に腰掛けた。


「早川、本庄、春日部、こちらへ来て」


 メイド達は、白城の席の後ろに立った。


「一応、シスルさんもご存知とは思いますが、顔合わせということで、ご紹介させてください。メイド達も前回セキュリテルームで終始拝見させて頂いていたので、シスルさんのことを知ってはいるのですが、これからトラブルにも多く関わりそうなので、いきなり初対面というのも差し支えが出る場合もございますでしょう」


 白城の前置きの後に、メイド達は体の前で組んでいた手を両脇を締め手指を伸ばして、気をつけの姿勢を取った。


「メイド長の早川由美子です。槙島少尉の部下です。一狼様のお宅のお手入れとセキュリティを担当しています」


「メイドの本庄絢音です。以下同じく」


「メイの春日部凛。以下同じく。先ほどは大きな声を上げてしまい、失礼致しました」


「シスルと言います。よろしく」


「よろしくお願いします」


 メイド達三人は、そう言って気をつけの姿勢で敬礼した。


「それでは、早川、食事の支度を頼む」


 白城は、早川の方を振り向きながら、作業の続きを指示した。


「はい、承知致しました」


 メイド達は再び、テキパキと食事の支度を始めた。



「シスル、昨晩はお疲れ様でした。それで誘拐犯の所には、あれから行ったのか?」


「ああ、締め上げたが、人身売買組織については、殆ど何も知らなかった」


「えっ、もう行ったんですか?」


 白城も今更、驚くことでもなかったが、何度聞いても感嘆詞の言葉をうっかり口にしてしまっていた。


「取り調べで、犯人が余計なことを話されると組織の尻尾を掴めなくなるからな。それと車の中から小百合ちゃんを助け出す時、クルマの中に隠してあった麻薬も押収しといた。恐らく石倉が隠していたものだろう」


「それで…多少なり、何かわかったことはあるのか?」


 一狼は、僅かでもデビルスターの手掛かりを知りたかった。


「犯人は、相手がデビルスターかどうかさえ知らなかった。人身売買については、ネットの掲示板で知り合い、自分の連絡先を伝えたら電話がかかってきて、取引の手筈を指示されたらしい。そいつが我聞という男だと思うが、そいつからは三回連絡があり、一回目と二回目は、誘拐した子供の顔見せと尾行がないかを確認していたようだ」


「相当用心深い奴だな」


「それで三回目が昨晩ということだな。どれも我聞の指示通りの道順で、走らされていたそうだ。そして昨晩は小百合ちゃんの引渡しが予定されていたようだ。どこへ向かっているのかは、犯人は何も聞かされていなかった。…驚くべきは、三回目の連絡を受けた時、小百合ちゃんの買取価格を三百万円で提示されたそうだ」


「その金額は大きいのか? 少ないのか?」


 一狼にはピンとこなかった。


「年齢や性別にもよるのでしょうが、発展途上国だと数千円から二万円位じゃないですかね。それは日本人だから? 或いは何を目的として誰が買い手なのかにもよるかも知れませんね」


 白城は一狼にそう言い、続けてシスルに質問した。


「それで誘拐犯が最初に接触したネットの掲示板の痕跡は辿れなかったのですか?」


「既にその掲示板は消されていた。後は黒狼のところのメフィストのメンバーが見つけてくれるか、密売人の石倉に連絡が入るのを待つか…。と言った所だな」


「シスル、食事の用意ができたから、食事を始めないか? 続きは食べながらでも良いけど、食後にしても良いんだぞ」


「ああ、別に構わない。それでは有り難くいただくとしよう」


 そう言うとシスルの黒いロングジャケットのようなものと手のグローブが身体に吸い込まれるように消えていき、ジャンプスーツのような姿に変わった。


 メイド達は作業が一段落し、キッチンの前で整列をして、手を前に組んで立っていた。


「シスルさんのそれは、何度見ても不思議なのですが、科学的に説明が出来ることなんでしょうか? まさか魔法なんてことはあるまいし…」


 白城は、サラっと聞いた。


「それを教えると白城の記憶を消さなければならなくなるが、それでも良いか?」


「そりゃ困ったな。ご遠慮しときます」


 三人は、テーブルに並んだ料理を口にした。


「いつもは白城と二人だけだから、もっと軽い料理ばかりなんだけど。白城は料理が得意なんだ」


「うん。美味しい」


「ありがとうございます」


「ところで銀から聞いたデカいバイクの奴の話なんだけど。そいつは白いフルフェイスで、黒のライダースーツに白のライダージャケットを羽織り、背中にデビルスターと英文字で書かれていたらしい」

「そして逆五芒星のマークが小さくあったということだ。バイクはレーサータイプのようだったが、ナンバーは外されて、車種や色までは、後ろから見たもので、よく分からなかったらしいんだ」


「そうか、それは初めて聞いた。今回、誘拐犯を捕まえるにあたって、銀やメフィストのメンバーが関わっていることを我聞に知られたと思う。すこし用心しといた方が良いかもしれないな」


「確か監視カメラの画像で、一回目が群馬で、二回目が神奈川、そして三回目の少女引渡しが神奈川ですよね。我聞って奴は、その周辺がアジトか何らかの用意がある場所ということではないでしょうか?」


「うん、その可能性はあるな。銀や翔ともよく打ち合わせして、後で第四分隊にも連絡しとかなきゃ、だな」


 一狼は、白城の顔を見ながらそう言って相槌を打った。


「それとその我聞って奴が、石倉に取引の連絡を入れないのは、春休みや入学時期、そしてゴールデンウィークで麻薬を買う学生が少ないからじゃないかな」


「そうですね。坊ちゃんの言う通り、それもあるかもしれませんね」


「石倉もいずれ車の所有者ということで、警察から事情聴取されるだろう。暫くは我聞も連絡を入れないかもしれない」


「それでシスルさんが、押収した麻薬はどんな物だったんですか?」


「アンフェタミンだ。覚醒剤だな」


「麻薬密売に人身売買まで、それでその用心深さ。館林君に撒菱まで撒いたのですよね。我聞って奴は相当危険なようです」


 一狼と白城は、何かを思案するように沈黙のまま食事を続けた。


 食事が終わるとメイド達は、食器の片付けと食後の飲み物を三人から聞いて、用意を始めた。


「ところで話は変わるんだけど、シスルは、今度の土曜日夕方時間空いてる?」


「ああ、空いてはいるが、何か?」


 メイド達が飲み物を其々のテーブルの前に出して回った。


「両親が海外出張から帰ってくるので、夕食に誘われてるんだけど、シスルも一緒にどうかなと思って」


「遠慮しとく。こんな格好でしか行けないから」


 シスルは、そう即答した。


「良いよ。シスルだったら大丈夫だよ。突然姿さえ現さなければ」


 少しの間、シスルは考えた。


「場所は都内のホテルランバス黒菱スカイタワー五十一階の展望レストランで午後六時から。うちのホテルだし、その日は招待客しか来ないから大丈夫だよ。何と言ってもレストランから見る都内の夜景がとっても素晴らしいんだ。行こうよ」


「すまない。折角だが、今回は遠慮しとく」


「────」

「そうか残念だなぁ。両親にも紹介しようと思ったんだが…」


 一狼は少し残念そうな表情だったが、しかししつこいことを言うのも躊躇った。


「坊ちゃん、また今度お誘いすればよろしいですよ」


 白城は、今回の事件のことやシスルのことを黒川ローズに報告すべきかどうかを迷っていた。一狼がバイクに乗っていることや暴走族の総長をしていることをローズに報告していないせいでもあったからだ。

 そしてローズへの報告を怠っていたことは、自分の保身のためではない。とそう自分に言い聞かせても、やはり後ろめたい気持ちを拭去ことは出来なかった。


「じゃあ、次の機会にまた誘うからな」


 シスルは、無言でカップに口をつけた。そしてそのカップをゆっくりとテーブルに置きながら「それでは今日はこれで帰るとしよう。黒狼、昼食に誘ってくれてありがとう。そして白城、料理とっても美味しかった。ご馳走様」と言って席をたった。


「ありがとうございます」


 白城も席を立ち、シスルに礼をした。


「あっ、それと今晩、また走りに行く?」


 一狼は、席に座ったままシスルの帰りを惜しんだ。


「明日は朝から用事があるので、今晩はやめとく」


 一狼は、シスルの返事を聞くとシスルを見ながら席を立ち上がった。


「そうか…。なあ、シスル。また連絡するから。何かあれば、そちらからいつでも連絡して」


「ああ。分かった。それでは失礼する」


 そう言ってシスルはロングジャケット姿に戻り、全身黒尽くめとなった瞬間、姿を消した。




とある廃工場跡地


「メフィストってのは、お前らの連合グループの名なんだよな。神奈川の誘拐犯を追ってたのは、お前らだよな」


 白いフルフェイスに白いライダージャケットを着た男がヤンキー風の若い男の右腕を捻り上げた。


「嶺屋さん、すんません! 勘弁してください! 俺、下っ端だからよく知らないんっす」


「トップは、何処のどいつだ。知ってることを全部話せ!」


「だから……知り…ウッ、ウッギー!」


「長良クンょお、右腕折れちゃうよ?」



 ヤンキー風の若い男は、第三分隊特攻隊の長良快斗。長良はデビルスターの嶺屋から覚醒剤を仕入れて、学生や分隊内の一部に密売していた。

 帝都連合では、薬物御法度の絶対ルールであった。

 埼玉を拠点とする第三分隊が連合傘下になったのは、全五分隊中、一番最後の新参組であった。元は黒蛇會という三十名ほどの暴走族であったが、連合の傘下となってからは、バイクが総勢五十名と四輪部隊二十名が所属している。長良が麻薬に手を出したのは、傘下になった後、四輪部隊の一人から、上手い儲け話があると言われ、嶺屋を紹介されたのだった。




五月三日 午前十時 妙行市内 携帯ショップ


「そうなんですか。正規代理店まで行くのは面倒だから、機種交換でお願いします」


 五十棲は、バッテリー交換に日数が掛かることを店員から言われ、使い始めて三年以上経っていることも考えて機種交換を申し込んだ。


 新機種を選ぶために店内をどれが良いか探していると、ショップの入り口ドアが開いて初老の夫婦と少女が入ってきた。


「ん? 薊ちゃん」


「あ、香織ちゃん。おはようございます」


 望月 薊と祖父母の望月純一郎六十六歳と沢子六十三歳であった。


「おはよう。あ、そうか。携帯買いに来たんだね」


「うん」


「薊ちゃん、どなた? 学校のお友達?」


 祖母の沢子が、薊に優しく尋ねた。


「うん。お友達」


「あらっ、まぁ! そうなのね。初めまして。薊の祖母です。孫がいつもお世話になっております。これからも仲良く、よろしくお願いします」


「あっ、ハイ!」


 そう言って祖母は、五十棲に会釈した。

 そして五十棲も望月の祖父母に自己紹介と挨拶を交わした。



「薊ちゃん、お爺ちゃんと私は、椅子に座ってるから、好きなものを選んできなさい。決まったら声を掛けてね」


 そう言って祖父母は、待合席に腰掛けた。


「お爺さん、薊に友達ができたんですね。良かったですねぇ」


「そうだなぁ。それで携帯電話が欲しくなったんだな。最近はよく出かけることも多くなったしな。良かった。良かった」



「薊ちゃん、私も今日機種交換に来たの。薊ちゃんは、携帯どれか好きなのある? 同じのにしようか?」


「あの…、沙耶ちゃんと同じやつがいい」


「そうか、私もそうしようっと。それで携帯もストラップもお揃いだね」


「うん」


 薊と五十棲は、楽しそうに葵 沙耶と同じ機種を探した。


「あっ、あった。薊ちゃん見て。すみませーん。この機種で白色なんですけど。二台ありますか?」


 薊が五十棲の元へ行くと、休みに入る前の五十棲とは、思えない元気の良さだった。



 五十棲は、機種交換だったのでそれ程時間はかからなかった。

 薊の祖父母が購入と申し込みの手続きをしている間に、薊は待合席で待つ五十棲の元へ行き並んで座った。


 「これ私の番号」


 と言って薊は五十棲に携帯番号とメールアドレスのメモを渡した。


「やったね。これでいつでも連絡取れるね。そうだ、帰ったらレインも登録してね。私もアドレス送るから」


「分かった」


 薊は、とっても嬉しそうだった。薊が憧れていた友達に。そして連絡先を交換して、楽しく話し合うことが夢だった。


「あ、それとね、昨日、沙耶ちゃんから今度の土曜日に夕食のご招待を頂いたの。是非、薊ちゃんも一緒にって言ってたんだけど。連絡先が分からなかったので困ってたの。今からでも薊ちゃんも行くって言えば、沙耶ちゃんもどうぞと言ってくれると思うの。それで場所と時間は、また連絡するって沙耶ちゃん言ってたんだけど、薊ちゃんは、どうかしら?」


「うん、行きたいなぁ…」


 薊は、ワクワクしながら五十棲の顔を見た。


「良かった。大丈夫。私から薊ちゃんもお誘いできたって、沙耶ちゃんに連絡しとくから。それと沙耶ちゃんに薊ちゃんの番号とアドレスも教えても良いよね」


「うん。香織ちゃん、お願いします」


 そうして五十棲と薊は紙袋を持って、ショップを出ると五十棲は望月の祖父母に挨拶をして、それぞれ帰路についた。

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