第2話 超人

四月七日「國學黒菱学園」全学科課程の入学式


 正門前は新一年生の生徒とその父兄の車で渋滞を起こしていた。



 國學黒菱学園は、妙行市という地方都市に所在する幼少中高一貫校で上は大学・大学院まである。

 入学式は幼稚園を除くその全課程の進級生と途中入学の新入生を対象に行われる学園全体行事であった。


 國學黒菱学園の大学・大学院課程修了の卒業生は、その後の人生が保障されるほどの国内トップの男女共学有名校であった。親が子供の将来を考え、子供が将来を夢描きながら、全国から挙って生徒が集まった。

 生徒の多くは同学園の小学科、中等科、高等科からの進級生であったが、中等科、高等科、大学からの厳しい難関受験を経て、途中入学する新入生も少なからずいた。受験難度は、上位課程ほど厳しかった。だから地方の受験生を持つ親は、子供を寄宿寮に入れてでも、小学科から入学させる父兄も多くいた。


 学園は地方都市の外れに位置し、小さな町がすっぽりと収まるほどの広大な敷地面積を有する巨大マンモス校であった。


 学園敷地内には、幼稚園を除き、それぞれの課程校舎と、それぞれの校庭グランド、体育館及びプール、各課程の食堂があり、それぞれの校舎に隣接してそれぞれの男子・女子寄宿寮が設備されていた。


 生徒の多くは幼稚園を除き、学園内の寄宿寮から登校し、それ以外の生徒は、小中高大それぞれの専用通学門から通学していた。

 小中高の通学生徒の殆どは、各家庭の送迎によっての通学であった。またそれぞれの通学門まで、最寄駅からの公共バスが運行されていたが、利用者の大半は出入り業者を含めた学校関係者と大学生であった。


 学園敷地内には、生徒と教師、その関係者や学園行事の出席父兄以外の学園内立ち入りは禁止されていた。

 従って生徒の送迎車は、それぞれの通学門前の専用ターミナル(一時駐車場)までとされていた。




「おはよう! 今日は入学式だから、正門前は大渋滞だったな」

「おぅ、おはよう! なんとか間に合ったぜ」


 中等科通学門では、通学する生徒が、口々にぼやいていた。


 そこへ一台の黒いリムジンが中等科通学門前に横付けされた。通学門前の横付けが、学園から許可された車であった。


「黒川だ!」

「ん? …黒川君だ」


 男子生徒は女子生徒から睨まれて、直ぐに言い直した。


「君じゃない! 様でしょ! 失礼な奴ねぇ」

「今日も登校時間ぴったり。私、この時間を狙って、いつも送ってもらってるんだ」

「私なんか、今日は正門前が渋滞してたから、間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたよぉ」


 男子生徒の声より、女子生徒の声が急に大きく慌しくなった。


 リムジンから降りてきた少年は、中等科三年の「黒川一狼 十四歳」だった。


 黒川一狼は、國學黒菱学園の創設者であり、黒川グループという国内最大企業グループの社長「黒川菱一 四十七歳」の一人息子。

 母は同グループの会長「黒川ローズ 四十二歳」である。


 一狼は、細身で小柄ではあるが、中学三年生としては標準的な身長であった。

 肌は白く、髪は茶色。瞳はブルー。長髪の艶やかな髪と白い肌は、一見女の子として見られてもおかしくない。その上、美形である。東洋人というより、西洋の貴公子と言ったところだろう。成績は常に学年トップで、スポーツ万能。


 一狼の学力、体力は、幼少期より同年代の子供と比べても、大きく際立っていた。学力は小学科の頃には、既に大学卒業レベルであった。しかし両親は一狼の健全な育成のために飛び級をさせることはなかった。

 運動能力も、小学科の頃より、異常な数値を見せていた。その数値は、〝人並み外れる〟という言葉を超えていた。これには、一狼本人も、周囲との大きな違いが異常であるということに気づき、自身をコントロールして、異常な数値が人に知られないように隠していた。


「白城、帰りも、いつも通りの時間で頼むよ」


 一狼は甘く大人っぽい声で、運転手の白城にそう伝えて車を降りた。


 入門前の通学生徒は皆、端に立ち並び、一狼に道を開け、通りを譲った。

 学園中の誰もが、一狼のことを知らない者はいなかった。


 しかし、そんなエリート中の超エリートである黒川一狼にも、大きな秘密があった。


 帝都連合「匁呎州都メフィスト」総勢三百名の総長「黒狼」こと黒川一狼であったのだ。

 だが、そのメンバーでさえ「黒狼」の本名は誰も知らなかった。

 つまり、学園内でも、連合グループ内でも、黒川一狼が黒狼であることを誰も知らなかったのである。


 一狼の自宅は学園からそう遠くない市内中央にある高層マンションの最上階に一人暮らしをしていた。


 このマンションとは別に本宅は都内にあるのだが、通学に不便なことと、両親が海外出張が多いため、セキュリティー面を考慮して学園のある地方都市の黒川グループが所有するタワーマンション(黒菱タワー)最上階の全てを一狼のために用意したのである。


 ただ一人暮らしと言っても、運転手兼世話係兼ボディーガードの白城も同居していた。

 同居と言っても、最上階全てが一狼の居住専用に使われているため、一狼の隣に住み込みで働いていると言った方が近い。その他に白城が採用した執事の槙島浩二(三十八)とメイド長の早川由美子(二十八)とメイドの本庄絢音(二十三)と春日部凛(十九)が住み込んでいた。


 一狼は、いつも白城の運転する送迎車で、この黒菱タワーから通学していた。昼食は中等科食堂で、食事を摂り、朝と夜をマンションで白城の作る料理を食べていた。

 学園から自宅に帰るとすぐに地下の専用ガレージから愛車のバイパーに乗って、黒菱タワーの裏手にある専用口から、毎晩のように愛車に乗り走りに出て行っていた。




「坊ちゃん! 毎度のことで、口うるさくいう私も嫌なのですが、呉々も気をつけてくださいね!」


 白城は、「じゃぁ」と言って、マンションから飛び出そうとする一狼に慌てて声をかけた。


 入学式の今日も、一狼は帰宅すると早めに夕食を済ませ、愛車の『バイパー』で走りに出て行こうとしていた。

 今年で十五歳の誕生日を迎える一狼は、当然のことながら、無免許である。


「クッソ、聞いてねぇし」


 白城がそう愚痴ると、外の扉が閉まる音の後に直ぐに開く音がした。


「白城! 坊ちゃんって呼ぶのは、止めてくれって言ってるだろうが!」


 一狼は、戸口から大きな声を張り上げた。


ガチャ…


「チェッ!」

「聞こえてるじゃねぇか」

「坊ちゃんじゃなきゃ、なんて呼べばいいんだよ…」

「坊っちゃま? …? 同じか?」

「…坊や? は、ダメだよなぁ?」


 白城は、少しばかり感覚がズレているところがある。


 しかし白城は、一狼の人並外れた学力、体力、運動能力と一狼が黒狼と呼ばれ、関東一円をまとめる暴走族グループの総長であることも、一狼の全てを承知していた。


 白城景虎 三十九歳独身、七年前まで、中東で傭兵をしていた。その頃に黒川グループからセキュリティ担当としてリクルートされ、それまでの実績と能力から、一狼専属三六五日二四時間勤務のボディガードとして採用された。

 執事の槙島は、傭兵をしていた頃の白城の後輩であった。


プルプルプル…


「あっ、はい、奥様」


 白城は、黒川ローズの着信番号に緊張しながら、スマホをとった。


【そちらの様子はどう? 変わりはないかしら?】


「はい奥様、お変わりございません」


【そう、いつもありがとう。ご苦労様です。今回の海外出張は予定より長くなってしまいましたが、来月には帰国する予定なので、その時はまた、一狼と一緒に本宅の方へ遊びに来て頂戴ね】


「はい、お坊っちゃまにもそうお伝えさせて頂きます」


【白城には、全く休みをやれなくて、本当にごめんなさい。一狼が十六歳になるまでもう少し我慢してちょうだいね。よろしくお願いします】


「何を仰いますか。滅相もございません。そう言う契約で雇って頂いている身ですので、お気になさらないでくださいませ」


【ありがとう。何かあれば、こちらにも直ぐに連絡をくださいね。それでは、よろしくお願いします】


「はい、失礼いたします」


 電話でのローズの言葉は、いつも優しくて、温かみのあるものだった。


 ローズが海外出張のときは、大抵、月に二、三度こうしてローズから連絡が入るが、白城の方からローズに連絡を入れることは殆どなかった。




 一狼のフルフェイスのシールドには、夕暮れの光が反射するビルの窓が流れるように映されていた。

 愛車のバイパーは、中等科に進級すると同時に白城の許可を得て購入したものだった。


 一狼は、特にメフィストの集会がある訳でもなく、誰かと約束している訳でもない。まだ明るい街並みを駆け抜けて、此間の峠道での緊張と解放をもう一度、味わいたかった。


 街並みの国道から峠道への県道に入り、一狼は一人峠道を登った。


 頂上の展望ガレージに着いた一狼は、沈みゆく夕日に包まれた街並みを見つめていた。


(そういやぁ、あいつ、地面に足届いてなかったよねぁ?)


 ふと、先日の謎のバイカーのことを思い出していた。


 陽の傾きは、赤く染まった街並みをそっと包み込むように翳りだし、それと同時に夜の街の姿を現した。


 一狼はセルを回した。




ドライブイン昭和


 地方都市と地方都市を結ぶ国道沿いのドライブイン昭和施設建物内には、お土産物売り場にうどん・そばなど軽食類のイートインと自販機コーナーがある。またそれとは別に隣接する形で、ガソリンスタンド、レストラン、公衆トイレ、屋外自販機などがあった。

 駐車場は広く、夜間はいつも大型トラックが多く停まっていた。しかし日中は商用車や営業車など自家用車が多く目立った。


 ドライブイン昭和は、メフィスト統括グループが集合する溜まり場、拠点でもあった。

 メンバーの集合に関しては、集会のない限り、特に決められたルールはなかった。ただ集まれる時に集まれる者だけが、自由に集まった。

 夜は雨降り以外は、ほぼ毎日のように誰かが立ち寄った。


「それにしても銀、此間のバイクの女凄かったよな」

「もう一度会わねぇかな」


 イートインの端の方のテーブルで、総長補佐の山崎翔太郎(十六)がうどんを啜りながら向かいに座る館林に話しかけた。


「あぁ、、」


 館林は、外のガラスを眺めながら、気持ちここにあらずと言った感じであった。


「もう一度一緒に走って見たいよな」

「もう一度会ったら今度、連合パレードに誘いましょうか?」

「こりゃぁ、名案だろ? 銀も良いと思う…だろ?」


 山崎は、うどんを食べ続けながら、途中喉を詰まらせながら、虚な館林に喋り続けた。


「あぁ…」


「って、ちょと待てぇ! ダメだろうが、連合は女人禁制だろが!」


 館林は、窓ガラスの外に四、五台のバイクが館林と山崎のバイクの横に停まるのを見ながら、山崎の言葉に遅れて反応した。


「つか、お前よく食べながら、そんな喋れるな」


 館林は、やっと山崎に顔を向けて、会話した。


「やっぱ、黒狼も許してくんないですよね」

「総長っすからねぇ」

「示しがつかない。ってやつですよね」


 山崎は、うどんの汁を啜りながら喋り続けた。


 その時、イートインの入り口から黒いレザーのライダースーツを着た若い男たち五人が入ってきた。

 五人は、館林らの座るテーブルとは、反対側の少し離れたテーブルに座った。


「それでも統括グループだけなら、良いんじゃないっすか?」

「黒狼も黒岩峠であの女と走ったんですよね」


 館林は、ライダースーツの五人が気になって、山崎の話を半分しか聞いてないようであった。


「プッ、表のバイク見たか。今時、ヤンキーはねぇだろう。ダッせえ」

「どんな奴が転がしてんのか? ツラを見てやりたいもんだぜ」

「恥ずかしくて、今ごろ小ちゃく丸まってんじゃねぇのか?」


ハッ、ハハハー


 そう言って若い男達は一斉に笑った。

 男たちの館林と山崎のバイクを馬鹿にする話し声や笑い声はイートイン中に響くほど大きかった。


 これには流石に山崎も、うどん鉢の上に箸を置いた。


「いいか、軽食販売は、まだ営業中なんだから、静かにしてろよ」


 館林は、テーブルの上で拳を握りながら、そっと山崎に注意を促した。

 山崎は、男達からゆっくり背中を向けるようにして、窓の外のバイクを眺めた。


「転がすってか? あのダサいヤンキーバイクじゃなくて、乗ってるヤンキーがどっかに転がってんのじゃねえか」

「チゲーねぇ!」

ワッ、ハハハ

「おい、どっか床に転がってねえか? 探そうぜ!」


 ライダースーツの男達の挑発は更にヒートアップしていった。


「アイツら、ナメてやがる」


 背中を向けたまま山崎は、窓の外のバイクを見ながら、怒りを抑えながら呟いた。


 館林は、黙ったまま山崎の方をジッと見つめていた。


 その時だった。若い男たちとは別の大きな声がイートイン中に響いた。


「おい! 銀! コイツらお前らのこと探してんぞ!」


 黒狼だった。


 館林と山崎の顔は一瞬にして青ざめ、その声に驚いてテーブルから思わず勢いよく立ち上がってしまった。

 館林と山崎は、ライダースーツの男達を見ないようにしていたので、黒狼がいつの間にかイートインに入ってきたのを気づかなかった。

 館林と山崎は、ゆっくりとイートイン内の黒狼の位置を確認した。


「ゲッ! いつの間に」

「ヤバいっす!」


思わず二人の口からこぼれた。


「早く行ってやれよ! コイツら煩くてしょーがねーや」


 黒狼は、イートインの中央に座り、うどんを食べていた。

 特攻服を着ていない黒いレザーのライダースーツの黒狼は、暴走族やヤンキーには丸で見えなかった。


「お、いたいた。アイツらじゃん」

「何で突っ立ってんだ? 転がってんのじゃなかったのか?」

「やっぱりヤンキーだったのかよ」

「阿呆面して、ションベンでも漏らしたか?」

ワッ、ハハハ!


 ライダースーツの男達は、これから始まる恐怖に青ざめた館林と山崎の顔を見て大声で揶揄った。


 イートイン内はまだ時間帯も早く、中には小さな子供連れの家族客もいた。その子供は店内の異様な雰囲気に驚いて、ついに声を出して泣き出してしまった。


「あー、うっせー! ガキがうっせいから、もう出ようぜ!」

「ヤンキーの阿呆面も拝めたことだしな」


 そう言いながら、ライダースーツの男達は、子供連れの家族客の前を泣いてる子供を睨みながら出て行った。

 睨まれた子供はさらに大声で泣きじゃくった。


 その様子をずっと見ていた黒狼は、外を出ていく男達の後に続いて同じように外へ出ていった。


「やばい、やばい、やばい、やばい!」


 同じように館林と山崎も慌ただしく、後を追いかけた。



「おい、コラッ」


 黒狼は、ライダースーツの男達を呼び止めた。


「何だコイツ? ヤンキーの仲間か?」


「お前ら、泣かしたよなぁ!?」


「何だ? ケケェ、ヤンキー泣いてやがったのか」


「泣かしたよな! って聞いてんだよ!」


「坊やナメてんの? お前、ちょお、こっちこいや!」


 ライダースーツの男達は、黒狼の胸ぐらを掴みドライブイン駐車場の自販機コーナー前まで連れて行った。


「黒狼!」

「ダメだ、手遅れだぁ…」


 慌ててイートインを飛び出した館林と山崎は、出口で揃って肩を落とした。


「お前ら、何で泣かしたんだよ?」


 胸ぐらを掴まれ引き摺られながらも、黒狼はライダースーツの男達に質問し続けた。


「だから、お前さっきから何言ってやがんだよ」


「だから、何で泣かしたんだよって聞いてんだよ!」


「おい、さっき、ヤンキーがコイツのこと黒狼って呼んでたぜ」

「ちょっとヤバいんじゃね」


 帝都連合総長の黒狼の噂は、密かに若い世代には有名だった。


「お前ら、耳聞こえてるんか?」


「俺はヤンキーって奴が大嫌ぇ何だよ!」


 そう言いながらライダースーツの男の一人が、黒狼の顔面に強烈なパンチを入れた。


「……じゅー!」


 黒狼は、殴られても平然とした顔で、意味不明な言葉を発した。


「コイツ、テッパンだな」

ヒッヒ、ヒ、ヒ


 男達は、そんな黒狼を見ても、その異常さを気に留めることなく蔑んだ。


「何言ってんだ? お前、だから何で泣かしたんだよって聞いてんだよ! 早くしろよ!」


「何言ってんだコイツ、頭逝ってやがるんか?」

「ひょっとして? あの子供のこと言ってるんじゃないっすかね」


 ライダースーツの男の一人が、少し様子が変なことに気づき始めるが、他は面倒くさそうな顔で黒狼を見下していた。


「何で答えねぇんだよ! いつまで待たせる気なんだ?」


 今度は違うライダースーツの男が黒狼の腹に蹴りを入れた。


「きゅー!」


 また違う男が黒狼の横からパンチを入れた。


「はちー!」


 今度は黒狼の後ろから、警棒のようなもので背中を殴った。


「しち!」


 黒狼の異常さに、流石に男達の一人は、半歩後ろに身じろいだ。


「やっぱ、なんかヤバいよ、コイツは!?」


「こうなったら、とことん最後までのしちまおうぜ!」


 ライダースーツの男達は、一斉に殴る蹴るの暴行を黒狼に浴びせ始めた。


「ろく、ごー、よん、さん、にー、いち、ゼロ!」


 地面に倒れた黒狼は、ゆっくりと起き上がり、自販機の方へと歩き出した。


「お前ら、何で答えられないんだよ!」


 そう言いながら黒狼は自販機を両腕で抱き抱えるように挟み、ゆっくりと持ち上げ振り向いた。


「大の大人が、小ちゃい子共を泣かして、恥ずかしくて答えられないんだろうが!」


「…? …? …?」


 ライダースーツの男達は、暫く唖然としていたが、すぐに揃ってその場から逃げ出した。


 黒狼は、男達が十メートルほど走ったところへ目掛けて、持ち上げた自販機を投げつけた。



 この世には、人間離れした人間が存在していた。



 幸いライダースーツの男達には当たらず、怪我も無いようであったが、男たちは五人共、腰が抜けて地面に這いつくばってしまった。


「くっそがー! 銀や翔は、強えーから、お前らが何を言おうが、構わねーけど。弱い相手を虐めて、何食わぬ顔をしている奴が、大っ嫌い何だよ!」


 這いつくばった五人に近寄って、黒狼が吠えた。


ふぇえ~ぇ…


 男達は、言葉にもならない悲鳴のような声を上げた。


「二度と忘れるな!」


 そう言って黒狼は、館林と山崎の方へ歩き出した。


「また親父に怒鳴られるよ~」


 館林は、滅茶苦茶になった自販機を見て肩を落とした。

 ドライブイン昭和は、館林の両親家族が経営していた。

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