第55話 『 2章が終わりそうな雰囲気なんですけど…… 』


 おかしい。


「……かくかくしかじかで、戦力を増やそうと思ってるんだけど」

「おぉ! それでしたら兵士として有能な者たちがいます! どうぞ彼らを配下としてくださいませ!」


 私はもう少し、人材募集が難航すると思っていた。

 なのに、


「……実は今兵士を募集してて」

「ならば我々の中から好きなだけ連れて行ってください! 皆、ミィリス様の為とあらば、例え火の中水の中、人間族にも勇敢に立ち向かっていく者でございます!」

「「おお――――――っ‼」」


 親交の深い鬼族オーガ竜蜥蜴族リザードマンはあっさりと勧誘に乗ってくれて、


「まぁ! それは妖精族エルフの長としても光栄極まりないことですわ。どうぞ我々妖精族エルフの中で、ミィリス様が使えそうと思った者を持って行ってください」

「あの、多少抵抗とかは……」

「? 抵抗などありませんが」


 妖精族エルフは「私が魔王様にお仕えしたい!」という者たちが後を絶たず、結局じゃんけんで決めることになり、


「畏まりました。では、吸血鬼族ヴァンパイアの長である私が、【成体】の中で優れた者を査定しておきます。数はいかほど?」

「ええと、六に……六体ほど雇ってもよろしいでしょうか」

「承知致しました」

「よ、よろしくお願いします」


 吸血鬼族ヴァンパイアからもあっさり勧誘が成功してしまった。


 ……おかしい。


 普通はもっとこう、なんていうの? 数々の苦難と話し合いの末、ようやく配下が集まったなー! とか章の最期の方で感慨に浸るやつじゃん! なのになんで一ページにまとまるくらいで戦力集め終わってるの⁉ このままじゃ何の盛り上がりもなく二章終わっちゃうんですけど⁉ 改革済んじゃうですけど⁉


「よかったですねミィリス様! 想定より早く戦力が整いそうで!」

「……はは。そうね。皆が快く働いてくれるって頷いてくれて、ワタシスゴクウレシイ」


 リズは今日も私の手腕ぶりに感服といった様子だ。私の憂いなど知らないといった風に。


 まぁ、順調なのは何事においてもいいことなのは間違いない。納期が早く済めば次の納期にもゆとりがもてる。……ここで社畜からのワンポイントアドバイスだ。学生バイトや新社会人になった皆には気を付けてほしい。納期というものを。仕事の納期を早く済ませると、次の仕事タスクとはまた別の仕事タスクを上司から任される。というかやらされる。なので、仕事はできるだけ納期ギリギリで終わらせた方がいい。さもなくば理不尽な量の仕事タスクを任されることになるわよ。五度目の私みたいに。


 なーんて元社畜からのワンポイントアドバイスで尺を稼ぎつつ、私はよれた背中を伸ばしながら一緒に歩くリズに言った。


「なんて言うか、皆喜んで働きたい! って言ってくれるから、そっちの方に驚いちゃって」

「魔界城で働くのは魔物の夢みたいなものですからね」

「そうなの?」

「はい。優れた魔物だけが、魔王の配下となることを許される。故にこそ私たちは【幼体】の頃から勉学に務め、鍛錬をするのです。魔物にとって、『魔王』に必要とされること以外の喜びはありませんからね」

「じゃあ、リズは現在進行形で私の下で働けて嬉しい?」

「それこそ身に余る光栄でございます」


 私の悪戯な問いかけに、リズは曇りなき眼で言い切った。

 嘘一つ吐いていない、言動の全てが本心で事実だと告げるような瞳と声音。

 私に全幅の信頼を寄せてくれてるというのは、嬉しくもあり、重責にも感じて、むず痒くも感じた。

 それでも、こうやって何も考えず、ただ信じられる相手が隣にいてくれるのは心底嬉しかった。


「本当にアナタって子は……本気で惚れちゃうわよ⁉」


 専属秘書にじわりじわりと攻略されつつある魔王わたしは、魔物でも同性婚はありか? と本気で考えるのだった。 

 

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