第2章――1 【 働き方改革 】

第47話 『 ミィリス様の経過報告 』

 二章スタートです。

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 私が生まれてからおよそ一ヵ月が過ぎた。


 生まれてから一ヵ月というと、人間の赤子だと大した変化はない。

 しかし私ことミィリスは、人間ではなく魔物。そして、魔物の中でも極めて異質な誕生だった。


 そう、人工出産である。


 色々な過程を無理矢理すっ飛ばして私は、誕生直後には背丈が小学五年生くらいあり、最初から会話ができ、読み書きも数週間でマスターするという天才さえも妬むスピードで成長し、現世に順応していった。


 驚くのはまだ早い。更に、強靭な肉体と桁外れた身体能力、獣より優れた視力と聴力を備えていた。


 まだ驚くのは早い。


 もうここまでくるとチート野郎だと思われるけど、私はまだチーター性能を残している。我ながらに自分の性能ぶっ飛んでると思うけど、これだけじゃない。

そう、私は前述のチート性能に加えて、絶大な魔力を有しているのだ。それだけじゃない、膨大なスキルと魔法も習得している。


 ……チートかよ⁉ 


 と私自身が驚きを通り越して呆れるほどの性能になっているのだ。

 いったい誰がこんな身に余る力を望んだと嘆きたいところだけど、しかしこの私の力を望む者は存外多かった。


 私の力を望む者たち。それは、私をこんな最強に造り上げた魔物たちだった。

 数は多すぎて正確には分からない。けど、ざっと300体は越えると思う。そんな数多の魔物が私に魔力を分けてくれたのだ。有難いことこのうえない。

そして、私の力を望んでいるのは魔物たちだけではなかった。この力を望んでいるのは、神様もだ。


 私の事は説明すると長くなるのでざっくりと纏めると、前世の記憶を残こしたまま生まれた存在――つまり『転生者』で、人生を五回ほど体験している。その五回目の死に私は神様と出会い、そして神様にこんなお願いをされた。


 ――『世界の均衡を取り戻して欲しい』と。


 当初は、そんなの私には無謀だと思っていたのだが、最近では可能かもと思ってきた。

だって今の私、めっちゃ強いし。それに頼りになる仲間もいる。……仲間というか配下だけど。


 ……私は、人間が嫌いだ。そして、神様は『世界の均衡を取り戻してくれるなら人間を生かすも殺すも好きにして構わない』と言った。


 ……私は、これまで私を好き勝手痛めつけてくれた人間に復讐したいと思っている。そして、そんな私の意思に同調してくれる仲間たちもいる。彼女らも、人間が嫌いらしい。


 彼女たちとなら、神様の願いを果たせるかも、と思い始めている。


 生まれてまだ一ヵ月。


 赤子が食っては寝て、泣き叫ぶ生活をしているその期間で、私は順調に成長を続け、余りあるチート性能を完全に把握し始めていた。


 一ヵ月で、私こと『魔王』が統治している魔境・ノズワースにも変化が見られた。

冒険者や勇者が迂闊に森の中に入って来なくなり、もともと多くはなかった人の気配もさらに減った気がする。


 それも勇者を倒した影響と、私の存在が人間側に知れ渡ったというのが大きいだろう。

 

 それがこの生まれて一ヵ月で起きた私の出来事と、ノズワースの変化。


 多忙だとは思うけど、我ながらに良い結果を出せると思う。

 神様は、私の活躍を見てくれてるだろうか。

 見ててくれると、嬉しいなぁ。

 一ヵ月、色々と頑張ったんですからね。


 頑張ったので、今日は午後まで寝てましたけど。そこからさらに二度寝して、夕方ごろに起きて私の従者のリズって子に苦笑されたけど。


 最近勇者と冒険者が露骨に減って、やることがなくなって毎日のように統治してる集落に顔出してまた来たよって思われてますけど。


 最近城の中にいるのも退屈になって、外にでて鍛錬する日々が続いてますけど。

 それでも一ヵ月。私は頑張りましたよ。……いやまぁ、社畜時代より頑張ってるかと言われたら答えにくいですけど、でも日本と異世界を比べちゃいけませんよね。そもそも役職が違うし! 我魔王ぞ?


 兎にも角にも、拝啓、神様。

 私はこんな感じで、五度の前世よりもはるかに充実した毎日を過ごしています。

 魔物になってから、いい事ばかりです。

 魔物になって正解でした。

 魔物にしてくれてありがとうございました。

 私、まだまだ頑張ります。

 バルハラの均衡を取り戻す為に。


 だから、これからも見ててくださいね、私の活躍。そっちから見れるかは知らないですけど。


「……えへへー。かみさま~。私はきょうも、がんらるまふー……」


 以上、夢の中の私からの経過報告でした。…………ぐぅ。

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