第29話 『 リザードマンの鬱憤 』
ゴブリンからの報告を受けた私は急いで現場へと駆け付けた。
「いいからさっさと魔王を出せ!」
「分を弁えろ痴れ者ども。次私に舐めた口を聞けばその身塵にするぞ」
おー、バチバチと火花が見えるほど激しく揉め合ってますなぁ。
「クローム。あまり相手を逆撫でないで」
「ま……ミィリス様⁉」
私の声音に反応した金髪の
「いけませんミィリス様⁉ 今来られては……」
「私に用があるから押し寄せてるのに、その本人が来ないでどうするの」
「しかし……っ」
私の言葉にクロームは頬を引きつらせる。
そんなクロームを無理矢理払いのけて、
「ほぉ、アンタが俺たちの新しいご当主様か」
「えぇ、そういうことになるわね」
私を吟味するように、琥珀色の目が凝視してくる。
「ハッ! どんな魔王様かと思えば、まさかこんな小娘とはな」
「――口を慎め俗物。次ミィリス様のことを侮辱すれば、貴様らの集落ごと滅ぼすぞ」
私を嘲笑した
彼女は今まで見たこともないほどの剣幕を帯びた形相になっていて、彼女の代わり様に後ろから緊迫化した状況を見守っていたシャルワールとトワネットが怯えていた。
「――リズ」
「――っ。出過ぎた真似をしてしまいました。申し訳ございません」
私は鋭利な視線をリズに向けると、彼女はハッと我に返りわずかに剣幕を引っ込めた。しかし、私に忠誠を尽くす為に生きているリズ――だけではない。クロームの二人は、
「
「――あぁ。そうだ」
なるべく相手の神経を逆撫でないように、私は努めて冷静な声音で話の先を促す。
それに
「それで、私に要件というのは?」
「……納得がいかねぇ」
「何に?」
ぽつりと、小さくそう言った
そして、
「全部に納得がいってねえんだよ!
激昂しながら
それに耳を傾けていたクロームとリズは思い当たる節があるからか頬を固くして奥歯を噛んだ。
きっと、クロームとリズもそのつもりだったのだろう。彼らは人間に強い敵意を抱いている。故に、最強の魔王を作り上げて人間に報復ないし支配しようと謀っていたのだろう。
――しかし、それは順調に進むどころか進展する兆しすら見られない。『
その不満が先に爆発したのは、リズやクロームではなく
「アナタたちの意見はよく分かったわ」
「――――」
私は
私は見下ろす
「つまりアナタたちは、私が何もしていないことが不満なのね」
「あぁそうだ」
「じゃあ聞くけれど、今すぐ人間たちの街に侵攻を開始して、果たして勝算はあると思う?」
「――っ。その為に〝最強の
「誠に申し訳ないけれど、私はまだ生まれたばかりなの。自分の力の全ても把握できていない。毎日試している最中。そんな私が、勇者や英雄に挑んで勝てると思う?」
俯瞰的にみても、おそらく私は負ける。一対一ならまだしも、修練を積み、研鑽を重ねてきた者たちが束になって挑んでくれば敗北は容易に想像できる。
そんな私の自虐に、
「そんな戦いせもせず負けを認める奴が『魔王』なんて名乗るんじゃねえよ!」
「ならアナタが『魔王』になる?」
「――っ⁉」
嘲笑を含んで挑発的に問えば、
「いいわよ。立候補があれば『魔王』を代わってあげても」
「それはなりませんミィリス様⁉」
私の提案に堪らず待ったを掛けたのはクロームだった。
狼狽するクロームに私は「どうして?」と小首を傾げながら続ける。
「いいじゃない別に。魔物の世界は強い者が上に立つんでしょ。なら、彼ら《リザードマン》にだって『魔王』になる資格がある」
「ですが……っ」
「私が
「――っ!」
私がそう言った瞬間。クロームの目が大きく見開かれる。まるで、私がやろうとしていることを察したように。
――どうやら、判ってくれたようね。
小さく顎を引いてその推測が正しいことを肯定すれば、リズも遅れてたが私の考えに気付いたように息を飲んだ。これで二人はもう大丈夫。あと気掛かりなのは、未だに状況をよく理解できていない後ろの給仕係二人だった。
まぁそれは後でリズがどうにかしてくれるだろうと任せておいて、私は
「アナタたちの不満も鬱憤も、全部解決できる方法があるわ」
「――――」
私は見下ろす
「私を倒して『魔王』の座を無理矢理
私は、私が今生きている世界の
――――――――
【魔物紹介】
リザードマン。爬虫類の姿をした人型の魔物。固い鱗と長い舌が特徴的で、硬い鱗は鮮やかであるほどメスを惹きつける。長い舌は温度の把握と気配を感知することができる。木の実を好んで食べる。
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