第1章――3 【 魔王 VS 勇者 】
第28話 『 今後はツインテールでいくようです 』
自身の潜在能力の把握と集落の視察(とは言ってもまだ
しかし今日は休息日にして、朝食の後は自部屋に戻ってごろごろしていた。
「ふぇぇ~。だらけるのって最高~」
ドレスを着ているので多少窮屈には感じるが、それでもベッドの柔らかさが勝る。
「こうしてると、無性にポテチとコーラが恋しくなるわね」
一応、この世界にもその類の食べ物はある気がする。しかし今の私は魔物で、不用意に人間の住む街に近づくことはできない。見た目では人間に近いが、尾骨から連なる尻尾が私を人間ではないと証明してしまっている。よく見るとこの尻尾も可愛いのになぁ。
私は自分の尻尾をイジリながら、今はもう食べられない(かもしれない)ジャンクフードたちに哀愁を覚えた。
「……今度シェフに作らせるか。いや、私が直接作るというのも手だな」
あれこれと思索していると涎が勝手に垂れてきた。……はぁ、食いてぇ。
「それにしても……暇ねぇ」
休息日にしたはいいが、スマホもなければテレビもないのが異世界。なので、やることと言ったらひたすら惰眠を貪るか、こうしてだらけるか、書物に目を通すことくらい。
リズを呼べば相手してくれるのだろうが、彼女は私に対する忠誠心が強すぎるせいであまりフレンドリーに接してくれない。それは上司と部下みたいな関係だから仕方がないのだが、それでももう少しリズと親睦を深めたい気持ちもある。
「シャルワールとトワネットの方がもう少しフレンドリーに接してくれるのよねー」
私の着替えやその他諸々の支度を手伝ってくれる二人の給仕係。あの子たちは以前の会話がきっかけでよく柔和な笑みをみせて会話も弾むようになった。しかし、他の者たちは未だ私を『魔王』だと強く認識が働いてしまっているようでどうも距離がある。地下工房で働いているドワーフたちはそうでもないが。
「はぁ、皆のところに顔出しても、作業の邪魔になるだけかもしれないしなぁ」
「魔王様!」と喜んではくれるものの、私が見ていると皆緊張して委縮してしまう。私は社長か。
なんとも難儀な立ち位置にいるなー、と口を尖らせながら、私は意味もなく足をパタパタさせる。
「……やっぱ体動かすか」
悶々としているだけで時間を食うのは割に合わない。それに今昼寝なんかしたら、確実に夜眠れなくなる。やっといつも通りに眠れるようになったのに。
せっかくの異世界生活だ。こちらでは夜型ではなく、無理矢理重い瞼をこじ開けることもなく、気持ちがいい朝型でいたい。
その為には適度な疲労が必要、と思案した私は、勢いよく体を起こすとベッドから出た。
「あ、そうだ。せっかくなら……」
私は部屋を出る直前、ふと揺れた前髪に意識が留まった。
そういえば試そうと思っていた〝アレ〟をまだやってないことに気が付いて、私は部屋から出るとシャルワールとトワネットを探しに廊下を歩いて行くのだった。
****
「とてもお似合いですミィリス様!」
「すごく可愛いですよ!」
「ふっふー。でしょ~」
私専属の給仕係二体を見つけ出してからおよそ30分後。
私は彼女たちにお願いして、件の〝アレ〟をしてもらった。
その〝アレ〟というのは……、
「朱髪といえば〝ツインテール〟よね!」
そう、私はシャルワールとトワネットに髪型のセットアップをお願いしたのだ。
絹のように細く流麗なストレートもいいが、二つに結んで愛らしさのあるツインテールも中々に似合っていた。ふむ、我ながらに絶世の美少女じゃない?
「……なんてお可愛らしく美しいお姿っ! くっ……何かこう、この瞬間を永遠に保存できるものがあればいいのにっ」
と後ろで悔しそうに奥歯を噛んでいるのは私の専属秘書リズ。
彼女が羨望する機械は別世界には存在するがこの世界には存在しないので、私はその葛藤を苦笑しながら眺めていた。
「本当にお似合いですよミィリス様。今後はこの髪型で外出されてはどうです?」
「歩く度に皆を虜にしちゃわない?」
「オスは皆発情しちゃいますね!」
「急にこの髪型止めたくなってきた⁉」
トワネットの何気ない一言に怖気が奔る私。
慌てて結んだ髪を解こうとするもシャルワールとトワネットに「勿体ない!」と全力で阻止された。
「もうっ。変なこと言わないで!」
「あはは、すいません。でもそれだけお可愛らしいってことですよ」
「むぅ、なんだか上手く丸め込まれてるみたいで釈然としない」
「ふふっ、不貞腐れてるミィリス様も可愛いです」
「アナタ、親近感が湧くとぐっと距離を詰めるタイプね」
つい数日前は緊張で顔面蒼白だったというのに、今ではすっかり軽口を挟むようになったトワネット。
その隣でシャルワールが「この子は」と呆れた風に額に手を当てていて、私はこの光景に見慣れ始めてきた。
私はそれに内心嬉しく思いながら、よっと立ち上がる。
「よし、髪型もばっちり整えたしちょっと運動でも――」
してこようかしら、と言おうとした直後だった。
「大変です! ミィリス様!」
バアン! と扉が勢いよく開かれて、それにシャルワールとトワネットが肩を震わせる。リズは「無礼者!」とノックもせずに入室してきた魔物――ゴブリンに権幕を立てた。
リズの一喝にゴブリンは「申し訳ございません!」と深く謝罪するも、顔を上げてすぐ余裕のない表情を私に向けた。
「どうかしたの?」
私のその問いかけに、ゴブリンはこくこくと何度も首を縦に振ると、大声でこう報せた。
「――
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