第22話 『 オーガさんたちの事を知ろう 』
かくして私は第一村人発見……じゃなかった。第一の集落――
そして今は、
「しかし魔王様がまさかこれ程までにお麗しい方だとは、いやはや、今日まで懸命に生きていた甲斐があったというものです」
「もぉ、村長さんってばぁ、大袈裟ですよ~」
まぁ、自分でも麗しくて可愛い見た目だとは正直思っている。正直ね。
これが村長さんの謙遜かは分からないけど、鼻の下を伸ばす私。ちらっと村長さんの顔色を窺えば虚偽は吐いていなさそうで、私は人知れず安堵の息を溢す。
「それにしても、魔王様自ら統治下である集落をご確認しに来られるとは珍しいですな。何か、我々にご用件でもございまいしたか?」
「そんな大層なことじゃないです。ただ、魔王たる者が統括している魔物たちのことも詳しく知らないのはどうかなと思って。今日はただ遊びにきただけなので、そんなに畏まらないでください」
そう言うと、村長さんは赤瞳を大きく見開いた。
「? 村長さん。私の顔に何かついてますか?」
「いえ、魔王様の先の言葉が先代魔王様……アシュト様にそっくりだったもので。少し、感慨深く」
「そんなに私、父と似てるんですか?」
「はい。アシュト様も、我々ノズワースの魔物を家族のように大切に思ってくれる方でした」
会ったこともない父親の話を、そんな憧憬に浸られたような顔で語られてもどう言葉を返せばいいのか分からない。
きっといい父親だったのだろう。それだけが分かるだけで、それ以外は何も分からない。遭ったこともなければ話したこともないのだから、当然といえば当然かもしれないが。
一目でも会えていたら、きっと母やリズ、そして村長さんのように父親を慕うことができたのだろうか。
私に似ているという魔物なら、一度会ってみたかった。会って、色々と――
「――?」
ふと、自分の中に湧いた感情に、私は戸惑いを浮かべる。胸がきゅぅと苦しくなるような感覚。それはまさしく切なさという感情以外は他になく、私はそれまでは無情だったが、既に亡き父親に対して生まれて初めてそんな感情を抱いた。
「(なるほど。家族に先立たられるとこんな気持ちになるのね)」
自分は、過去の人生で二度、親より先に他界している。原因はどれも自殺。四度目はイジメで、五度目は会社によるパラハラで。
今頃、母と父は泣いているかもしれないな。そう思うと、私も自然に涙が――
「(いやそれはないな)」
鼻で笑うようにその感涙を一蹴して、私は村長さんの話に意識を戻す。
――私に『社会人とはそういうことだ。辛いのは当たり前』と言い放ったあのクソ親どもに何の未練もあるはずがない――。
「――アシュト様とメルルア様の子とあらば、このノズワースも安泰ですな」
「それに関しては断言はできないですけど、けど、私なりに精一杯頑張るつもりです」
なにせ神様と『バルハラの均衡を取り戻す』という契約の下で転生しているのだ。結局、このノズワースの魔物たちの期待とは関係なく彼らに安寧を与えなければならない。
そうなると独りの方が動きやすかったなと思うものの、独りで数万数千の人間に太刀打ちできるかは微妙なのでこの転生は良くも悪くもといった所だった。
「そうだリズ、私たちの魔界城で
エリート企業の職場かよ、と思いながら隣を着いてくるリズに尋ねれば、彼女は「はい」と一拍置いて答えた。
「魔界城にいる
「たしか
「その通りでございます。
「弱点?」
私が小首を傾げると、リズの言葉を引き継ぐように村長さんが答えた。
「我々は身体能力は優れていますが、魔法はからきしなのです」
「なるほど脳筋ってわけね」
「「ノウキン?」」
「力のみで他者を圧倒するという意味よ」
実際の意味は思考が単純といった皮肉なのだが、私は咄嗟に誤魔化した。
脳筋、という語調と意味を知ったリズと村長は「いい響き!」と気に入ったようで、私は内心申し訳なく思いつつもそれでいいやと諦観した。デマも知らなければ事実になるのだ! 真実はたまに二つ!
「でも勿体ないわね。戦闘能力は高いのに魔法が全く使えないのは。両方優秀なら最強なのに」
「魔法に近接、どちらも優れている存在は稀有なのでございます。それこそクローム様のような
リズの説明に私はなるほどと顎を引く。
勇者の対となるのが魔王。魔王の対となる勇者。その力関係は比例となるべくしてなる、いわば理のようなものか。
そのパワーバランスが崩れる危機が訪れているのは、たしかに神様にとって看過できぬ問題なのかもしれない。世界の調和を是とする存在なのだから、パワーバランスが一方に偏っては生態系が崩れる危険がある。今のバルハラはまさにその危機に瀕しているというわけだ。
これは私がもう少し事態を重く見る必要があるのかと、そう思惟していると――、
「――ん?」
「魔王様?」
まず、その変化を誰よりも早く感知したのは私だった。
長耳がピクピクと動いて、眉間に皺を寄せる。わずかに遅れてリズも違和感に気付き、頬を固くした。
私たちが感じ取った異変。それは数メートル先から茂みを慌ただしそうに掻き分ける音だった。
「リズ」
「――はい。ミィリス様」
確認とリズに視線を向ければ、彼女は頬を固くしたまま厳かに顎を引く。
私とリズに緊張感が増していくのを村長さんは不思議そうな顔で眺めていたが、けれど茂みの奥から
ぜぇぜぇ、と荒く息遣いを繰り返す
「緊急! 緊急だ! 皆……すぐに避難しろ! ――勇者が、勇者が攻め入ってきた!」
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