第1章ー1 【 五度の人生と魔王誕生 】
第1話 『 私は転生者 / 一度目の人生 』
――私は、幾度となく人生を繰り返す転生者だった。
一度目の人生は、物心ついた時には既に路地裏で生活していた。当然お金は一銭もなく、その日のご飯を食べるのもやっとだった。どうやら母と父は既に死んでしまったようで、私は同じ孤児たちと群れを成してどうにかその日その日を生き延びていた。
ある時は野生のウサギを捕まえて食べて、またある時はスリをして金を
人を殺す、なんてことは流石にできず、その頃から仲間意識が芽生えていた孤児たちも同じ思いで一線だけは越えなかった。
何もなかった人生だけれど、しかし人の心だけは失ってはいけないと、煤だらけの頬で笑いながら誓い合った。
――けれどそんな道徳は、大人たちにあっさりと蹂躙された。
ある、とても寒い日だった。
雪が降り、肌を凍てつかせるほどの風が吹き、廃墟で焚火をして皆で体を寄せ合わさなければ凍えて死んでしまうような日だった。
誰が通報したのかは分からない。たまたまだったのかもしれない。これまで散々人から物を奪い続けたから、神様が呆れて罪を下したのかもしれない。
どうしてかは分からない。全ての不幸が一斉に自分たちへと降り注いだのかもしれない。あらゆる可能性に思い当たる節があって、私は『ついにその日がやって来たんだと』とそれを見て一人納得した。
私たちが根城にしていた廃墟。そこに、黒いスーツを着た怖い人たちが押し寄せたのだ。
銃を、構えていた。
それだけで、全員が悟った。
自分たちが何か取返しのつかないことをして、それに腹を立てた黒いスーツを着た人たちが根城を突き止めて報復しにきたのだ、と。
そういえば何日か前に、大きなカバンをリーダが盗んできたのを思い出した。
中には大量のアクセサリーや宝石が入っていて、これを売ればしばらくは食う金に困らないと皆で笑い合っていたのを、私は思い出した。
皆、それしかないと、そういうような顔をしていた。
だから怖い顔をする黒いスーツを着た人たちに、皆ぼたぼたと大粒の涙と嗚咽をこぼしながら、額を冷たい地面に擦りつけて何度も謝った。
ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
必死に、懸命に、縋るように、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――恐怖心に心を蝕まれながら、命だけはと懇願した。
しかしそれは、嘲笑で一蹴された。
必死に冷たい地面に額を擦りつける私たちを、黒いスーツを着た男たちは腹を抱えながら嘲笑っていた。
みっともない。これが弱者の在り方。人権すらないゴミ。
そう罵倒されながらも、生にしがみつくために私たちは額から血が滲みだすほど擦りつける。
なのに。
一発の、甲高い音がした。
パァァン、という発砲音が鳴り響いて、私はすぐに顔を上げた。
そして見れば、一番端にいる、まだ十にもならない小さな女の子が、動くことなく横たわれたまま、血を流していた。
死んだのだと理解するのに、一秒も掛からなかった。
その場で呆ける私の耳に、皆の悲鳴と男たちの下衆な笑い声が入り混じる。
一人、慌てて逃げだす仲間を、今度は別の黒いスーツを着た男がまるで的当てゲームでもするように銃を構えて撃った。
狙いが逸れて足に当たり、仲間は血を流しながらよろけてその場に倒れる。
まるで死ぬ間際の虫みたく地面を這いつくばる仲間を、男たちは何が可笑しいのか笑いながらまた引き金を引いた。
また、一人死んだ。
次々と、泣き叫ぶ仲間が死んでいく。
その光景を私は、逃げることなくただ涙を流しながら茫然と見ていた。
――これは処刑だ。
罪を罪と知り、それに逃げてきた私たちへの、神様でもない人の、信念もなければ正義もない無常な制裁。言ってしまえば私たちと同罪を持つ者たちが〝快楽〟の為にしている――傲慢的処刑。
そう理解して――やがて私の番がやってきた。
見れば仲間は全員うつ伏せか横たわっていて、命の源であった鮮血をどくどくと流している。
辺り一面が血の海と化した惨状で茫然とする自分。懇願で超す付けて赤くなっていた額に、銃口が突きつけられる。
あぁ死ぬのだと、分かった瞬間怖かったけれど、何故か妙な安心感があった。
やっと辛い日々が終わるのだと。
引き金が引かれる刹那。男たちが「狂ってやがる」と呟いた。
その顔は先ほどまで〝罪を持たざるを得なかった〟仲間たちをゲーム感覚で殺して楽しそうに笑っていたのに、何故か私を見て戦慄していた。
そして男たちは悦楽から底知れぬ〝恐怖〟に染まった顔を向けながら、何か焦燥感に駆られるように私に向けて引き金を引いた。
パァァン、と何度も聞いた銃声が、ついに私に届く。
途切れ行く意識の最中で、自分の体から吹き出す鮮血を見た。
あぁやっと『死寝る』と、そう思いながら倒れていく。
ドサッ、と倒れて、段々と瞼が重くなっていく。
本当に意識が無くなる瞬間。どうして男たちが私を怖がるような目で見ていたのかようやく分かった。
「――ふふっ」
死ぬ刹那。私は、何故か笑ってい――。
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