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相対する雷太郎とクラウディア。互いに顔には出さないもののその緊張感は最高潮に達していた。
だがしかし『ティターンレクス』『ドリアードの長老』を召喚し、さらに時空を曲げる『フローチャート』を使った以上、消費した力はクラウディアの方が大きい
『と言いたいところだが』
雷太郎は気付いていた。クラウディアの持つ杖がまるで準備運動を終えたかのようにゆっくりとギアを上げてきていることに。
クラウディアの持つ杖、名は『ザ・ロット』、まさしく『杖』という名前だがこれには訳がある。その杖は数多の魔法杖の頂点、いや数多の魔法杖『そのもの』と言った方が良い。
~多重存在魔法~
文字通りの同じ座標に違う物質を存在させる、この世の定理を侵す『異法』。それそのものが形を成して杖として現れたのが『ザ・ロット』なのだ。この杖の座標には現解する全ての『杖』が存在している、そしてそれは持ち主の認識次第で『どの杖』として存在するかが決まるのだ。つまり
『あらゆる魔法杖を内包し、あらゆる魔法を操れる』
使い手のさじ加減で何の杖にでもなれる。決まった形も決まった名前も持たない。だから最低限、杖であることを示した『ザ・ロット』という名で呼ばれていた。
今のところは『使った魔法の魔力消費が大きいほど次に使う魔法の威力が上がる性質』を持つ『星杖スターエクスプレス』として存在させているが、もちろん認識を改めることで他の杖にも変化させられる。
『ズルい杖だ』
しかし雷太郎は持っていたアバレモノに目を下ろすと『フッ』っと鼻で笑った。
「人の事言えねぇか」
そう言うとアバレモノの柄を両の手で握り、ついに雷太郎は『目』を閉じる。
その時
地球上の生命、その全てが背後に『死神』の存在を感じ取った。
「!」
目を閉じる。それすなわちタイマンのこの状況下では大きな隙をさらす行為だ。が、クラウディアはここで攻撃することもなくただひたすらに『逃げ』に徹した。結果としてそれは戦いの延命をはかる。
「刀一閃それを六回、合わせて六閃『三途の川』の渡し賃」
その振りは『刀神アラヤ』がまだ人間だった頃に好んで使っていた技。あらゆる刀はこの技に耐え切れず、振り切った後には『使い捨て』としてぼろぼろと崩れた。当時を生きた鍛冶師は語る「あの技を一番恐れたのは武士じゃねぇ、鍛冶師だ。なにせ丹精込めて作った刀が一振りで炭に為る」
そう、アラヤがしっかり『六閃』振り切れたことなど一度もない。この『アバレモノ』を手にするまでは
まず景色を切った。出来上がったパズルをひっくり返したようにばらばらになる
次に概念を切った。この技の前では全て等しく『切られたもの』になる
最後にお前を切った。お前はただ地面に落ちるだけだ
この時、地球全ての刃物『剣』『刀』『包丁』『カッター』に至るまでもが刃先をクラウディアに向けた。
全ての刃にとってこの技を受けた者は、この技を使うに値された『栄光の人物』。刃物なりの讃辞だ。
しかし結果としてクラウディアは生きている。
まず先ほどと同じく『フロチャート』で時空を曲げた。次にテレポートで距離を離れた。さらに『防御魔法』で体を固め、『バリア』を何重にも展開、『陣開戦術魔法』を広げてフィールドの物理を書き換え、『水魔法』で少しでも刃の威力を軽減しようとした。ここまでを一瞬で行えたのは『魔術』だけでなく『頭の回転』にも優れたクラウディアだからこそだ。
が、そんなミルフィーユ状の対抗策は『アバレモノ』によって一直線に、本当にただ一直線に切り抜かれた。
だがクラウディアは生きている。何故か
それは一度『死んだから』である。
~フェニックス~
フェニックス、伝説の怪鳥。己を燃やし、その灰から自信を復活させる『再生』のモチーフ。しかしある時、誰かがその灰を水に溶かして飲み干し『適合』した。が、それはフェニックスの『再生』ではなく『炎』のみを汲み取り、結果として『炎』をばらまく厄災『バーンガルダ』を生み出す。
クラウディアはこれを撃滅。そして最後、消えゆく『バーンガルダ』から『感謝』の印に残っていた『再生』の力を受け継いだ。
この時以来、クラウディアの胸には熱い『炎』が厄災としてでなく、暗闇を照らすほのかな光として優しく在った。
『ありがとう。フェニックス』
クラウディアは深く、感謝する。そして落ち着いて魔力を練り直すのだった。
その光景を遠くから見ていた雷太郎は深く息を吸う。
『面白い』
六閃を受けて生きている、これはもちろん雷太郎にとっても初めてのことだ。
雷太郎はアバレモノの艶めく刀身に顔を映す。
「相棒、ついて来れるか?」
アバレモノは言った。
「当たり前だ」
剣士VS魔術師 ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA
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