剣士VS魔術師

ポロポロ五月雨


これはとある荒野での一戦。向き合う刀と杖が互いに先を見つめ合い、バチバチと火花を散らして呻き合う。

東の方に立つのは『剣道の最果て』『最強無敵』『剣の腕以外いいとこない』との前評判。

「俺は、雷太郎次郎。ライタロウジロウ」

西の方に立つのは『魔法神の弟子』『最先異端』『ヒョロガリ眼鏡』との前評判。

「私は、クラウディア・E・フォート」


現時点の『剣士最強格』『魔術師最高峰』は、自らの獲物を握りしめて互いに名乗りを上げた。

雷太郎は目を閉じて、今までに何度も握った愛刀『アバレモノ』に想いを送る。

『勝ちてぇ。今日だけは、勝たなきゃなんねぇ』

一方のクラウディア。同じように目を瞑っているが雷太郎とは違い、ズルいことに開始の合図を待たずして何と魔力を練り始めている。しかしそれも

『勝ちたい。今日だけは勝たねばなるまい』

想いは同じ。お互いに勝ちたく、それには積み上げたすべて、いや120%を出さねばなるまい。

開始の合図は天からの知らせ。一枚だけ飛んできた木の葉が地面に着いたその瞬間に開始である。


ひらり

木の葉が飛んでくる。

だが2人は驚かない。その心拍数は変化せず、ただ眼だけで葉を追う。

ひゅるひゅると舞い、風に流れて、地面につきそうになるたび舞い上がり、舞い上がるたびに下に落ちる。

しかしついにそれは

地面に着いた。


先に動いたにはクラウディア。杖を上に掲げて叫ぶ。

「堕ちろッ!『ティターンレクス』!!」

一瞬にして空に暗雲が渦を巻き、その目から轟雷とともに何かが降ってくる。空気は揺れて、常人ならば場に居るだけで身震いで硬直してしまうほどのプレッシャー、圧倒感、伝説、それそのものが『在る』

土煙を巻き上げて『ドシンッ!!』

空に在る時は小さかった。しかし今、竜虎相討つこの場、目の前に来てこの巨体。

『デカいな。俺5人分はある』

「ドリアッシャアァアアア!!!」

咆哮が空気をつたって辺りを揺らす。大地が怯えて、木々がのけぞる。だがこの場にて唯一の不動『雷太郎』


『流石だ。しかし』

「精霊ッ!『ドリアードの長老方』!彼に祝福と栄光を!」

クラウディアが再び杖を掲げて天に叫ぶ。すると「ほいほいなっと」

その傍らに小さな芽が吹いた。芽はすくすくとタイムラプスのように高速で育ち、やがて最初からその場に生えていたかのような風体で根を土に下ろした。

「『ティターンレクス』にバフを掛ける日が来ようとは。面白い」

木は孔から声を出して「カッカッカ!」と笑う。

「では行くぞい。『春化狂・スプルブルム』!」

孔がそう言うと木から伸びた根っこがグルグルとティターンに巻き付いて、締め付けたまま地面に押し倒す。「荒療治じゃが」すると根はほんわりと輝き始めて、やがて繭のようにティターンを閉じ込めた。

「じゃ、これで」

そう言うとクラウディアの隣の木はうぞうぞと地面に引っ込んだ。

そして


「ハルラァッシャアァアアアアィ!!!」

繭がピシャ!っと破られて中から『ティターンレクス・スプリングサマーバケーション』が出てくる(以下、ティターンSSV)

「行け!ティターンSSV!!」

「ラッシャィ!ハルラッシャイ!!」

ティターンSSVはその巨体をバッと広げて口、手のひら、へそから出したエネルギー波を一点に集め、大きな光弾を練り上げる。

~ティターンレックス~

それは『地球の口』。あらゆるモノを喰らい、ついにティターン以外の全生命体からクレームが入ったことで神々の檻『天獄ジェイルジェイル』に閉じ込められた竜。彼がまだ地上に居た頃、彼が北半球に居れば皆が南半球に逃げ、南半球に居れば北半球に逃げ、何処に居るか分からなければマントルに逃げ込もうと穴を掘った。

そんな化け物だが『神々が恩を持つ』クラウディアがその杖を振るったときに、一時的に顕現。敵を喰らって骨ごと嚙み潰す。

今回はソレに『春化狂』を掛けた。ドリアードのみが使えるバフの最高位であらゆる生物に『こもれびの呪い』を与える。体には春風がほとばしり、頭には桜が詰まり、皮膚は薄くピンクがかる。

とある国『日本』の四季、その一角を司る魔法。春夏秋冬の春魔法『春化狂』それはまさしく『春による化粧』いやここまで変わっては『整形』と言った方が良い。

生態系の暴君×季節四席の一端

このコラボ。常人なら前に立つだけでも死が見える。


「ラッシャアァアアァァ!!」

ティターンSSVが溜めに溜めたエネルギーを光々とさせて、球になったソレを地面に咆哮混ぜて叩きつける。

 光の玉は地面を深くえぐりながら確かに雷太郎へと、ただ真っすぐに進む。

 『眩しい』白が、一見すると美しく。触れてしまいそうになるほど。だが触れてしまえば一瞬にして蒸発は免れない、そんな球だ。が、


「ハルラっ」その言葉を最後にして、ティターンSSVも球も、全てが真っ二つに切り裂かれた。球によってえぐられた地面痕には一線のより深い『刀筋の痕』が遺されている。

「やっぱり強ェな」

雷太郎は熱くなった刀を鎮めながら呟く。

『アバレモノ』はティターンSSVごとクラウディアまで真っ二つにしたつもりだった。だが

「やはり強者」

クラウディアはその斬撃を『時空を曲げる』ことで後方にスルーした。証拠に斬撃痕はクラウディアの前方で途切れて、その後ろから再び続いている。

『天国地獄を繋ぐ斬撃』

その噂、事実。閻魔は語る「ありゃヤベェ」

勿論そのことはクラウディアも知っていた。だからティターンSSVの光弾発射と同時に魔法『フローチャート』で時空を曲解、無理やり斬撃を捻じ曲げた。

『だが』

それに気づいた時クラウディアは戦慄した。クラウディアが『フローチャート』を展開したのは余裕をもっての5m前、しかし雷太郎の斬撃は自身の2m前で途切れている、つまり『3m分時空を切り裂いた』のだ。


『私のフローチャート展開が3m以内だったら』

クラウディアはその事実を脳の奥底に押し込めた。それを理解すれば今にも怖気けて動けなくなる。だから杖を握って前を見据えた。

転がったティターンSSVの死体がゆっくりと薄くなっていく。元は天獄の身、現世で死ねば死体は天上で処理される。

薄くなった死体を越して、雷太郎とクラウディアは互いに視線を交差させた。

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