出会いの8月(2)

 旭姉は、いきなりそんなことを言うので--わたしは動画を一時停止するのも忘れてしまった。

「ど、どういうことなん?!」

「いやふつうに、アプリでバイトを探したら、あやしいやつもあるから、大学で紹介されているものにしいやってこの前おかんと話してたやん? この前大学に行ったらたまたまあってん」


 大学ってほんとわからない。小学生中学校高校大学ってすすめばわかるのかな。

 いま知っているのは、小学校との違い、「時間割表を自分で作れる」ことと、「単位というのをとらないと四年間で卒業できなくて留年」というのになるくらい。

 あと、給食がなくて食堂でお盆をとって、よそってもらうとか。

のなんとか研究室の手伝いがあって、ましそうなのがそれやってな」

 京都都大学っていうところでドキドキしはじめた。

「経済学科?」

「学科は書いてなかったな、でも『工学部』やったから経済やないね」


 学部とかも、よくわからない。リケイとブンケイがあってな、とお父さんも言ってたけど。「みどりが中3の頃にも、もうちょっと変わってると思うし。だんだんも変わってきてるねん」と言ってたような気もする。むずかしいけど……そう、この前おこづかいで買ったクイズポッケの『テレビクイズ攻略法』にも、『った知識では運に頼らなくてはならない』って書いていて、漢字の読み方をお母さんに聞いた。--ああそれは「かたよった」ね。かたより。ヘンケンのヘン。--たぶん、あれのことだ。


 そして次の日、旭姉はお母さんに借りたスーツで京都都大学のなんとか研究室に出かけていった。




 お母さんは週に三回くらい、おじいちゃんのところへ行っている。きのうおじいちゃんのところでもらったようかんを、おやつの時間に切ってくれた。

「今日はみどりカフェに夕ごはんをお願いしたいんだけど? カレーか、ハヤシライスで」

「りょうかいいたしました。ハヤシライスにさせていただいても、よろしいですか?」

「ええよ。後でごはん炊いとくね」

 ハヤシライスは、小麦粉をふるうのがたいへんだけど、うまくできたらとてもおいしい。

「抹茶のようかん、もうすこし食べる?」

 もう少ししたら旭姉が帰ってくるから、旭姉の分を切っておくらしい。ちょっとだけもらって、麦茶を飲んでいたら、ドアホンが鳴った。

「おかえりー」

 鍵を開けに行ったら、ものすごい疲れた感じの人がいた。

「みーどーりー」

「ど、どうしたん?」

「話はあとだ……」

 お母さん、旭姉がなんだか、おかしい!



 お母さんのスーツは風通しのいい和室のにひっかけている。

 顔を洗って麦茶と抹茶ようかんでひといきついた旭姉は、「みどり殿どの……」とかしこまった。



「みどり殿お願いがあるんじゃ……明日、研究室に来てくれ……」



「……え? ……えええっ?!」


 な、何があったんだろう?

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