じめじめの6月

じめじめの6月(1)

「うひゃあ~!!」

 旭姉のひっくり返った声!

 これはきっと……ゴキブリとか、ムカデとかだ!

 スリッパをそうびしたお父さんの出番……!


 ところが。

 旭姉の部屋に行くと、旭姉は窓から離れてて、先に二階に上がってたお父さんはげらげら笑っていた。

「みどり、うちに、小さなお客さんだよ」

 ガラスの窓の向こうにいたのは、わたしの手よりも小さな、ヤモリだった。






「ほんとに梅雨時ってイヤだわ、髪の毛もほわほわになるし!……みどり、みどり?」

「……あっ、はい、どうしたの旭姉」

「眠たいんかな?」

 旭姉はその後お風呂に行って、ドライヤーを片手に、タブレットをぼーっと見ていた私の顔をのぞきこむ。まだ、約束の一時間は過ぎていないから、もうひとつ、クイズポッケの動画を見ていたんだけど、さっきのクイズの問題のところを、見のがしてしまっていた。

「今日はもう寝たら?」

「うん、そうする」

 お母さんにタブレットを渡した。

「いっしょに寝ようか?」

「……、ううん、またこんど」

「わかった。おやすみ、みどり」



 雨のつぶつぶは、たくさんたまると水たまりになる。水たまりは、大きくなると重力で流れる。低いところに流れる。それがたくさんになると、川に押し寄せて、ゆきどころがないと、流れを変えたり、勢いではんらんする。






「よう、

 5年生になって、クラスがえがあって……いちばん嫌なやつ、石井口いしいぐち サトヤ といっしょのクラスになった。石井口君は、大柄で、少年サッカークラブに入っている。なんだかいつもいばっている感じもする。それはほかの女子も言っているのだ。

「筑紫や、つくしんぼやない」

 まず、誰でもあだ名を付けて、それがよばれた人にイヤって言われてもそのまんま。

「それ貸せよ、つくしんぼ」

「ええっ、先に取ったの、私やろ?」

 それに、朝読の本が先にとられてても、貸せって言ってとりあげてくる。しかたなく(今日の五分朝読は終わったから、本棚に返さず)石井口君に渡すと、ひったくるみたいに取る。『ルビィのぼうけん』っていう、プログラミングのことを教えてくれる本が、かわいそうだ。

 それに……

「女でチビのつくしんぼが、プログラマーなんか、なれるわけないじゃん」

 そう言ってくるのが、すごくしんどかった。



 家でお父さんにいうと、そんなこというなんてひどいねって、泣きそうな私の、頭をなでてくれるんだけど。

 学校で先生に言うと、クラスルーム(学級会)でみんなで話し合いましょう、となってしまうから、おおごとになってしまいそう。



 わたしはいま、ぽつぽつした雨つぶみたいに、気になっていることがたまっている。


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