018
「――しつけェンだよクソババア」黄金の青年は能力を行使し、躰中に刻まれたいくつもの傷痕を修復させる。肘から先が欠損していた腕は瞬きひとつの間に元の形へ再構築され、割れた頭蓋は疼痛を感じるままに割れた箇所が埋まった。黄金の青年は、ぱきりぱきりと戻った肢体を見下ろし、にんまりと笑みを零す。
対する西城の姿は、正に絶望的と表現できる恰好だった。骨折や破損といった大きな外傷は受けていないが、その代わり、次々と迫りくる正体不明の衝撃が原因で、内臓のあちらこちらに損傷を受けていた。彼女もまた、人類史に於いて最高峰とされる超速再生といった能力を所有していた。《
――――久しぶりだな。あたしがここまで消耗するのは。
眼前で余裕綽綽と立つ青年に、ニヒルな笑みを向けた。直後、西城は《
「超速再生」ぼそりと呟かれたひと言。黒髪の毛先から一転、西城は斃れていた青年を見直す。潰れていた顔面は疵ひとつなく完治していた。戦闘によって生み出された衣類すら初見時の状態に戻っていた。は、と西城は天を仰ぎ見る。
――――成程ね、そういうことね。
首を鳴らしながら涼し気な表情を浮かべ、青年は近づいてきた。
「
「潰れろ」
青年が言うや否や西城の躰が少しずつ歪に変化をしようと――――しなかった。
「タネ割れてんだよザコが」瞬間的に禍力を放出し、締め付ける力を破る。ふん、と彼女は息を吐いた。「格下狩りはできても、格上には効きにくいんだろ」「――――テメェ」「その能力はあたしも
西城は額に血管を浮かせた青年へ視線を向けた。
「……そんな危ねえモン、どうやって手に入れた?」言いつつ紫煙を呑む。「あたしが知ってる所有者は、もう少しだけだが、理性的な男なんだがな」
「――――ハ」嗤う。「
莫迦言うな、西城の足場が爆ぜた。驚異的ともいえる速度で放った一撃は、ほんの少しだけ油断していた青年の腹部へ刺さった。熱い液体が貫いた装甲を覆い、ぬるりと月明かりを妖しく反射していた。「――――テメ」え、とは言えなかった。西城は貫いた腕とは反対の手を使い、大口開けていた青年の口腔へ拳を叩き込んだ。掌を厚く覆う装甲は、青年の口よりもはるかに大きく、結果として青年は歯のほとんどを折られてしまうこととなった。まるで蛇が獲物を
「言ったろ。あたしはその能力を
ごきりと響いた音は、夜の風に掻き消された。青年は拳を作り、西城の脇腹を左右から殴りつけた。児戯のような殴打に抵抗することなく、西城は言う。「お前が現在の楔石保持者だあ? はん、候補者は他にいなかったのかよ。前の所有者だったグリーディのほうが随分とマシな人格者だったように思えるぜ」拳を引き抜き頬をわしりと掴んだ彼女は、力任せに放り投げた。時速数十メートルという速度で放たれた人体は、上下左右がわからぬなか手入れされていない雑木林に突っ込んだ。またしても蒸気機関車のようなしゅうという音が聞こえた。西城は《
「
「――――なに言ってんだ?」西城は冷たく言い放つ。「ショッテンパード=グリーディって奴は、あたしも知ってる。なんせ元チームメイトだからな」だけど、と嘆息交じりに彼女は零した。「あの莫迦は傲慢で不遜で黄金だけれど――――そんな弱っちい禍力量じゃなかった。常人であれば近づくのすら億劫になるほどの存在感がある」
「
「――――はあ。だから言ってんだろ。お前はグリーディじゃねえ。只の雑魚キャラだよ」
話は終わりだと言わんばかりに彼女は全身へ禍力を纏わせる。周囲の大気すら揺るがすエネルギーは陽炎の如き物体の境界線を朧気にした。眼前のグリーディと名乗る青年は、呼応するかのように同量とはいえないまでも、濃く、存在感のある禍力を放出した。
決着は近く、そして結果は明らかな戦いだった。
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