エピローグ
「――昨日、変な夢見たんですよね」
真っ白なテーブルの上にぽつんと佇むブッコローを見ながら、スーツ姿の男が呟く。
「変な夢? どんな夢ですか?」
岡崎が訝し気に尋ねた。
もうすぐ本番ということもあり、二人の周りでは数人の大人たちがバタバタと忙しく動いている。
「う~ん、はっきりと覚えてないんだけど。なんか砂漠を旅してたんですよ。僕とザキさん、雅代姐さんに郁さん。あと間仁田さんもいたっけ」
「あらあら。どこでしょうか? 鳥取砂丘?」
「いえ、外国――というか別世界のって感じでしたかねぇ。まぁ、夢なんで内容もほとんど覚えてないんですけど」
「ハイ、それじゃそろそろ本番いきまーす!」
スタジオ内に適度な緊張が張り詰めていく。
今回の内容は『ガラスペン制作体験の世界』となっていて、企画の一つに蓄光ガラスペンを作るというのもあった。
「――あぁ、一つだけ夢の内容思い出しましたよ」
スーツの襟元にピンマイクを付けられながら男は笑いを含んだ声音で続ける。
「夢の中でザキさんが暗闇を蓄光ガラスペンで照らそうとするんだけど――」
少し溜めを作ると、完全に口元に笑みを浮かべる。
「持ってたのは蓄光じゃなくて蛍光のガラスペンだったんで光らなかったんすよね。今日こそは光るといいっすね」
――了――
有隣堂しか知らな異世界 維 黎 @yuirei
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