第8話 出会い

 「花園さん! 警察です!」

 「皆さん! 必ずこの街の人々を守りましょう! 断じて捕虜にされたり殺されたりしない様に!」

 「しゃぁ!!」


夏褌と若葉の侵攻から数日、再び警察の侵攻に見舞われる。前回の侵攻に比べさらなる多勢。花園たちは苦戦を強いられる。風間は特攻隊長として、我先に街の深部まで突き進む。


 「四天王はどこだ!」


警察の進軍により慌てふためく住民を横目に、風間は目的の四天王を探し、大声で叫ぶ。するとその声を聞きつけた朝顔が住民を掻き分け目の前に現れる。


 「信ッ…!」

 「朝顔か…! 久しぶりだな」

 「この街に、これ以上手出しはさせない! あなたは、私がここで倒す!」

 「そうだよな…。来いよ?」


煽る様な手招きをする風間に応えるように長槍を振り上げる。しかし、まだ到底使い慣れていない様子。

風間は間合いの中に入り込む。そして、槍の持ち手を掴み引き寄せる。

朝顔はその力に敵わず、簡単にバランスを崩される。

そのすきを見逃さない風間。わき腹に回し蹴りを喰らわす。


 「初めて会った時に比べて弱くなった?」

 「違う! あんたが強くなっただけ…」


蹴られた場所を抑えうずくまる朝顔。


 「はぁ。懐かしいな。俺が戦争孤児としてお前らの街に来た時…」


風間が言いかけたその時だった。


 「朝顔! 大丈夫か?!」


万年青が勢いよくその場に駆けつける。


 「万年青君! どうして!」

 「リーダーが助けに来てくれたんだよ」


万年青は警察の御侵攻後、夏褌と接触していた。当初はリベンジにに燃えていたが、夏褌の戦い方や一滴の血も付かない刀を見て、花園の話を思い出したのだ。


 「あんたなのか? 花園さんの言うリーダーってのは?」

 「俺はそんなつもりは無いが、間違ってはいないな。」


夏褌にはこの街のリーダーとしての自覚は微塵もなかった。ただ、平和を望むもの同士、協力者としてこの街に手を貸しているに過ぎなかった。


 「信じていいのか? 俺はお前を」

 「そう簡単に人を信じるな。お前が俺を信用に足る人間だと思うまで、俺を疑ったままでいい」


 「リーダーが! 本当?!」

 「あぁ」

 「おいおい! 邪魔するなよ! 久々の再会なのに」

 「再会? そんなもの想い伏せる為に来たんじゃないでしょ! 蓮を殺したみたいに私を殺しに来たんでしょ!」


それは15年ほど前、まだ風間が警察になる以前のこと、大陸国との戦争で唯一の肉親である父親を亡くし、どこか住む場所を探し彷徨い歩いていた時、朝顔や蓮がいる街へと辿り着いた。


 「ここ…あってるのかな」


長い間彷徨い歩いていたのか、その足取りはとても重たい。


 「誰だ? ここで何してる?」


風間の侵入を察知し、身元を突き止めるべく、男女2人が近づいて来た。女の方は若い頃の飯島朝顔。そして、男は夏褌怜雄に瓜二つの青年。彼こそが緋衣蓮(ひいれん)。この街の守護神として絶大な信頼を寄せ、警察からも要注意人物として恐れられている。


 「え? あぁすみません。身寄りのいない人たちがここに集まって生活しているって聞いて…」

 「警察…。って訳じゃなさそうだな。その服装だと」


風間の身なり、声色などをかなり警戒をしながら様子を伺っており、街の住人の安全を脅かす存在か否かを見極めるその姿が、守護神と言われる所以なのだろう。


 「そうです」

 「そうか、それだったら俺らは大歓迎だ。ただ」

 「ただ?」

 「この街の掟は守ってもらうぞ」

 「掟?」

 「自助と共助だ」 

 「は、はぁ?」

 「この街の人、特に子供たちは人身売買の格好の餌食だからな。自分たちで守らなければならないんだ」


蓮が守っている人々には戸籍というものが無かった。戸籍がなければ、誰が何処に消えようが売られようがそれが政府に知られる心配がない。また、売られた人間は劣悪な環境での労働を強いられることがほとんどであり、人間としての扱いを受けられない。だから、自分たちで人間として生きるために強くならなければならないのだ。


 「なるほど」

 「試させてくれ、君の実力を」

 「え? あぁ。はい」

 「朝顔。相手してやれ」

 「え? 分かった!」

 「あの! ちょっと!」

 「ごめんなさい!」


謝るや否や、いきなり風間に殴りかかる朝顔。突然のことに動揺を隠せない風間だが、朝顔はそんなことを気にしている様子はなく、追い打ちをかけるように拳を振り上げる。風間は最初、防戦一方だったが少しずつ反撃を始める。しかし、反撃も虚しく、朝顔のとどめの一撃を顔面で喰らい思わず倒れてしまう。


 「え? つよい…」。

 「何度も戦ってるから…ある程度戦えるようになったんだよ。」

 「なるほどね…って! 違う違う! ごめんさいって言いながら攻撃しないでくださいよ!」


何も分からないまま、いきなり殴られたり蹴られたりと、当然のことながら風間には状況が呑み込めなていない。ズキズキと痛む場所を抑えながら朝顔に対し鋭い目つきで物申す。


 「ごめんなさい!」

 「まぁ最初はそんなもんだろ。これからお前もこの街の人のために戦ってもらう。頼んだぞ」

 「そ…そんなもってなんだよ。まぁでも、分かった。」


結局、詳しいことは何も分からず、ただ街の人々を守るために強くなる必要があるのだと、それだけを理解し2人と共に街の奥に向かっていった。最初、風間は上手くこの街に馴染むことができるのか不安に思っていた。しかし、その不安は直ぐに解消された。どの人もとても暖かく迎えてくれたのだ。


 「蒼熾! 来てくれ!」

 「え? はい!」


蓮に呼ばれ、とても元気な返事をしながら急ぎ早にこちらに向かって来る風間と同じ年代の好青年。彼の名前は梅花皮蒼熾(かいらぎそうし)。みんなに囲まれており、風間の目にはとても人気のある人なのだと映った。


 「蓮さん。彼は?」

 「あぁ。紹介する。あ? 名前聞いてなかったな。名前は?」


名前も知らない相手を街の奥にまで来させるなんて警戒心が欠如しているのではないかと風間は感じたが、そんなことを言えるはずもない。


 「風間信子です」

 「じゃ、信と呼ぶか」

 「あっ良いですね!」

 「お任せしますよ」

 「そうか。それでな蒼熾。こいつと2人組を組んでくれ」

 「は、はい! 分かりました!」


また、風間は何のことなのか分からない。


 「2人組って何ですか?」

 「聞いたままだが? この街の人は戸籍がないからな。居なくなったときに誰かが直ぐ気付くことができるようにするんだ」

 「なるほど。それで」

 「それで信。蒼熾と組んでくれるか?」

 「それはもちろんです」

 「ありがとう信! 俺も今日この街に来たばかりだから何も分からないけど、一緒に頑張ろうね!」

 「う、うん」


その日以来、2人は互いに高め合い凄まじい速度で成長し、街を守る守護者として住人からの絶大なる信頼を得るほどまでに成長した。



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