第27話:どうなってんの?
「莉子、正直に言ってごらん」
「ふぁらふぁいふぁらふぁい」
「知らない知らない、じゃない」
ほう。山崎さんは白坂の通訳ができる人なのか。
「てかなんでおはぎ。今日はしょっぱい気分だって言ってたじゃない」
「だってー、今朝テーブルにあったんだもん。ちゃんとサ〇ダせんべいも持ってきたよ、教室にあるけどいる? まだ半分くらい残ってるし」
「半分……。莉子、また一袋持ってきたの?」
「せんべいは新鮮さが命だからね、食べかけは持ってこれないよ~」
「一日にそんなに食べたら塩分過多でしょ」
「おはぎ食べたからプラマイゼロ」
「ちょっと何言ってるのか分かんない」
同じく。
白坂のトレイの横にちょこんと巾着があった。どうやらおはぎはあそこから出てきたようだ。
くったりと横たわる淡いピンク色の生地、模様があるのかは判断できなかったが『うさぎぐみ しらさかりこ』と書かれているのは見えた。
*
「比永くんよ」
「はい?」
「正解はなんだったのだろうか」
「んー、わかんないな。俺彼女いたことないし」
「そうなの? あたしも! 仲間じゃん!」
四人そろって食堂を後にし、山崎さんと別れて教室へ向かう途中、並んで前を歩く二人はさきほどの反省会を始めた。
白坂の速度に合わせて進んでいるため後ろを歩く俺の歩幅も狭くなる。ふあ、と欠伸が出た。
「じゃあ男性として、どれくらい我慢できるものなの?」
「えー……どうだろう。ね、ちづ」
俺に振り返るな。二人でやってくれ。
経験もないのに我慢のキャパなど想像できるか。
しかもアレだろ、今言ってるのは「彼女」を相手とした前提での我慢だろ? 未知だ。
そもそも特定の人物を想像して悶々としたことはないし、過去好きな人はいたが随分前の話で、そんな欲を相手に抱くこともなかった。
「でも、彼女が待ってって言ってるんだもん。待ってくれるよね?」
「う、うーん……。まぁ、ある程度は? 多分」
「えーっ、なにそのハッキリしない感じ」
「いや、だから分かんないからね、俺は」
「だってそんなんするの怖いよ! 男子はアレかもだけど、女子は自分の体内に異物を入れ」
「し、白坂さんっ、ちょっと落ち着こうか!」
「あ、ごめん。入る方も勇気がいるか」
「白坂さん!」
ほほう。白坂も一応知識はあるようだな。
そりゃそうか。さすがにな。
ただ、なんというか。
その通りなんだが、もう少し言い方というものがだな。いや、その通りなんだが。
「比永くん、顔赤いよ。どしたの」
「い、いやっ、別に……」
「暑い?」
「ていうか、白坂さんってそういうの疎そうなイメージだったけど」
「え、比永くんは習ってないの?」
「あ、なるほど……」
「でも授業より詳しい子がいてさぁ、結構衝撃的な話でさぁ」
「あ、大丈夫です。白坂さんもう黙って」
ところで。お前らどこまで行く気だ。
共に戻ってきたとはいえ俺は付き合わんからな。
「まぁ、彼氏さんには申し訳ないけど我慢できるんなら我慢してもろて。やっちゃんの気持ちを大事にしてほしいな」
「そうだね、そこは大事だね」
「話を聞くしかできないのがもどかしいけど、他人がどーこー言える問題じゃないしねっ」
「うんうん」
二つの背中を見送る。教室に入り着席した数十秒後、廊下を走る音が響いた。
「あはははっ教室通り過ぎてたあ!」
「ちづ! 教えてよ!」
お。思ったより早く気付いたな。
***
放課後。智也のおつかいに付き合い駅前に来た。
飲食店や娯楽施設を無視して、地下一階から十階まであるショッピングモールに入る。
菓子専門店が並ぶ一階フロアにて注文済みの洋菓子を受け取り、到着数分でおつかいは終了した。
「……ねぇ、ちづ」
「あー?」
「ちづと白坂さんってどうなってんの?」
「ハ?」
お礼にとたこ焼きをご馳走になりショッピングモールを出てすぐ、智也がおかしな質問をしてきた。
言ってる意味が分からん。
「どうなるも何も、見てりゃわかんだろ。何もないが」
「いや、なんていうのかな」
ピタリと足を止め腕を組む。苦笑のようなものを浮かべて首を捻る智也に俺も首を傾げた。
何が言いたいんだ。
「二人の関係って意味じゃなくてさ、何か縁があるのかなって」
「意味が分からん」
「アレそうだよね?」
智也が人差し指を向けたのは前方。
クリスマスシーズンになるとでっかいツリーが飾られたりするが、今現在は花壇やベンチが常設されているだけのちょっとした広場だ。
その広場、右側のベンチ。見覚えのあり過ぎる制服姿の女子が二人いて、眉間に力が入った。
「遭遇率、エグくない?」
「お前じゃないか?」
「え、俺?」
「今日ここに来たのはお前の用だ。お前と白坂がどうにかなってんだろ」
ベンチに白坂が座り、向き合う形で山崎さんが立っている。俺らから見れば横向きだ、気付かれることはないだろう。だが智也はじっと見ている。
コイツ、まさか行こうとか考えてないだろうな。
「どうしたのかな」
「放課後を謳歌してんだろ」
「そうかな、なんか様子がおかしくない?」
「いつもおかしいよ、アイツの様子は」
「そうなんだけど」
そうなんだけど。
「声かけようよ」
「なんで」
「だって」
「別にそこを通る必要はないだろ」
迂回せずともあそこを回避する術はいくらでもある。
広場の奥には駅。夕方という時間が幸いだ、人がぞろぞろと出てきていてそれに紛れりゃ堂々と歩いても気付かれまい。
気持ち早歩きでいけば尚良しだ。
「……ちづ」
「あ?」
「白坂さん怪我してない?」
「怪我?」
そのワードに思わず視線が向く。
距離があり過ぎてそのものは見えなかったが、山崎さんは白坂の腕や足を気にし、白坂がへらへらと笑っているのは分かった。
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