第12話:発動条件
***
あの後すぐ智也がきて追及したい気持ちはそがれてしまった。
午後の授業、放課後と。特に白坂の不思議行動はなく、若干のモヤモヤを抱えたまま一日を終えた。
翌日。登校すると机には既にノートがスタンバっていた。「おっはよー」と朝から元気なお隣さんに「はよ」と挨拶を返す。
意外と思われたかもしれないが挨拶はするぞ。相手が白坂であろうとな。最低限の礼儀である。
ただ聞こえているかは分からないがな。
――さて。
机の横に鞄を引っかけ着席。いつもなら帰宅するまで触れることはないそれをぺらりと捲った。
日記に何か書かれているかもしれない。
こんなにもこれに希望をもったのは初めてだ。
そのものずばりでなくてもいい。
何かヒントでも。
「……」
しかし何もなかった。
相変わらず夕食おいしかった興奮しかなかった。
どうでもいいがこの人もうネタないのでは?
パタンと閉じると「えぇぇ?」と隣から声が飛んできた。
視界の端に不満げな白坂が映る。両手で頬杖をついて尖らせた口をぷくぷく動かしていた。
「珍しくすぐ読んでくれたのに? 返事はないのかい?」
「……」
「アッ、いやそぉな顔してる」
そう言って白坂は眉間にしわを刻み口角をぐいっと下げる。
どうやら今の俺の顔を真似ているらしかった。全く失礼なヤツである、俺はそこまでいやそぉな顔などしていない。
というかだな、これは交換日記だろう。
だったら返事は明日のお楽しみのはずである。
まぁいい。思いついたからな、書くさ。
鞄からペンケースを出せば白坂はついていた手から顔を起こし、ぱぁっと笑顔になった。
所要時間、十秒足らず。俺が書いたのは『昨日のなに?』という質問だ。
ノートを返却すれば白坂はすぐさま目を通した。
さぁ、あの不思議行動について説明をしてくれ。
だが白坂は、
「昨日?」
くてっと首を傾げた。俺は戦慄した。
この……コイツ……。
なんだ、昨日の行動はお前にとって普通だとでも言うつもりか。
そんなわけあるか! なんて恐ろしい!
「何かあったっけ……」
「……」
右、左と首を傾げ、遂にはノートを机に置き腕組してまで首を捻っている。
え、嘘だろ。
おおおおおま……。まじで?
本当に昨日の不思議行動は通常だったの?
よく考えてくれよ。おかしかっただろ?
心の中で問いかけた時、ふと思った。
あれ? 俺の基準で考えれば昨日に限らず彼女は不思議行動満載では? と。
……。
いやいや、違う。いや、そうだけども、そうじゃない。
この人は普段からおかしい。
だが昨日の動きはなんというか。乱暴に言ってしまうと、異常行動だったじゃないか。
それをそんな、首もげるくらい分からんて。
「あ、おやつのこと?」
なんのこと?
「そうそう! 昨日はおやつ忘れてね、でも今日は持ってきたよ~」
「……」
知らんけど。何でそのことだと思ったの? キミのおやつ事情に興味津々に見えた?
……アーソウ。ソウカヨ。
気にしても仕方ないということがよく分かった。
本人に理由も意識もない行動に思考を巡らせるなんて無駄にも程がある。あぁなんて無駄なことを。
「おやっ、瀬名くん寝るの? まだ朝よ~」
うるせぇ。
*
「……ねぇ、ちづ」
俺は再び考えていた。朝のやり取りこそ無駄だったのではと思わされるが、白坂の異常行動は続いているのである。
「今日白坂さんめちゃくちゃいない?」
「いるな」
「どこに行ってもいるよね」
「いるな」
「そういえば昨日の昼休みくらいからいるね」
「いるな」
断言しよう。獣に見られているような鋭い視線、あれはヤツである。
何度か目が合っているのだ、もう間違いない。
だが正確に言えば、俺を見ているというよりは俺の周りを見ているような感じだ。
「見て、今はこんだけ距離がある。でも多分何かの発動条件によりここに召喚されるよ」
「いらねぇな、そんなスキル」
ため息交じりに言えば智也はクスクスと笑った。
お前はいいな、楽しそうで。
まぁ、二日連続で異常行動くらったことで、その「発動条件」に大体の目星はついた。
とりあえず本日のアレの動きをまとめよう。
まずは二限、化学室でのことだ。
たまたまそこにいたという理由で俺とクラスの女子は教師に手伝いを頼まれた。
そこで白坂登場である。「あたしやるよ~」と言って女子と二人、化学準備室へ消えていった。
男手がいるのではと思って一応後を追ったが、ビーカーにフルーツオレを入れて飲むのが夢、と白坂が意気揚々と語っていて。
教師含め三人は盛り上がっていたのでおまかせすることにした。
次。
前方を歩いていた女子の落としたプリントが俺の足元にひらりと着地するということがあった。
それを拾おうとした瞬間、素早い動きで背後から白坂が奪っていき無事、持ち主に渡った。
そしてついさっき。
数人の女子が智也に話しかけてきた。
彼女らの目的は智也なので俺は景色を眺めていたよ。
そして見つけた。女子らから少し離れたとこでちょろちょろしながらこちらを窺っている白坂を。
まとめてみれば明らかだが昨日の場面もプラスして。
共通するものはもうひとつしかないよな。
女子だ。
白坂が召喚。それは女子と俺が何らか接触した場合にのみ発動するのでは、と思われる。
「白坂さんってもしかしてさ」
「……」
「ちづのこと好きなんじゃ」
彼女の何がそうさせるのか、それは分からないけれども。それだけはないと言える。確実に。
これは俺が謙遜しているだとか鈍いだとかそういうことではない。
アレはそういうことではなくて、多分――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます