第11話:何なの、どうしたの
俺らが教室を出る時、白坂は女子らと談笑していたと記憶している。
わざわざ見たわけじゃない。女子らの笑い声が一際バカでかくなったから何事かと目がいった。
よほど楽しい話でもしていたのか。内容はもちろん分からないが、確実なのはその中に白坂がいたということで。
なのに何故ここにいる。
自販機に御用? ハァハァ言うまで走るほど喉が渇いていたのか?
余計渇くわ。
そうだとして、では何故こんな登場をする。
見て分かるだろう、次は俺だ。
何故こんな割り込みを。
「あっ、ごめんなさい。お気になさらずジュース買ってください! どうぞ!」
白坂は肩を揺らしながら女子生徒へ言う。
俺の方を見ないから分からないけど、声の感じからして笑顔を見せているようだ。
「は、はい……」
だがそれが何だというのか。
こんな登場されたら笑顔とか関係ない。
女子びっくりしてるで。可哀想に。
「白坂さんも飲み物?」
「ううんっ」
智也の問いに白坂は頭を横に振る。
ペットボトルをひとつ腕に抱えた女子生徒はぺこりと会釈して、そそくさと離れていった。
え、ううん? 違うの?
「やー、走った走った! 気付いたらいなくなってるんだもん」
「いなくなってるって……もしかして俺ら? あ、ちづに用があったの?」
「まままま、ほら自販機空いたよ。買いなっせ!」
そうか、割り込みではなかったか。
ならいっか。
いや、そうはならん。じゃあなによこの人。
*
「俺トイレ行ってから戻る」
「おう」
二階に着いて智也はトイレ、俺は教室へ向かう。
ハッとしたのは二、三歩進んでからだった。
少々距離はあるとはいえ、俺の前には白坂がふわふわと歩いている。
しまった。普段連れ立ってトイレに行く習慣がないから流れで別れたが、つまりは俺は一人であの不思議生物と過ごさなきゃならんのでは?
何故自販機に来たのか。
白坂はその理由を言わなかった。
智也も追及しないし。俺も勿論しないし。
あった会話といえば「今日はおやつ忘れちゃって~」「甘党?」「甘じょっぱ党!」くらい。
お分かりだとは思うが俺は参加していない。
そしてそのまま三人でここまで戻ってきたのだ。
特に振り返ることも喋ってくることもないからヨシ! とはならない。
それはそれで目的が分からんじゃないか。
智也が言っていたように俺へ用があるなら早く済ませてほしい。
今なら全然聞く。寧ろあってほしい。
何度も言うが俺は省エネ主義なのだ。出来る限り無駄なことにエネルギーを使いたくない。
意味不明な行動に何かしらの理由があるのではと探ることだって、多大なエネルギー消費なんだぞ。
歩くたびに背中で揺れているサラサラの髪へ届くはずのない溜息を吐き出した。
急いでいるわけでもなし。彼女に続いて教室へ戻る理由はないのだ。
足を止めれば開いていた窓へ吸い寄せられる。
ピチチと聞こえた鳥の声に外を見上げた。
あぁ、青空が高い。
「あっ、あの」
ぼんやり空を見つめているとやけに近くで高い声がした。
視線を下ろせば女子生徒の姿。
どうやら彼女は俺へ声をかけたようなのだが、それ以外に言葉はなくじっと足元を見つめている。
下を向かれていては俺がどんなに頷いたとて気付いてもらえない。
さっき智也に言われたばかりだが、これでは空気を読んでいただくこともできないわけで。
「……。ハイ」
「あ、あの、比永くんは……一緒じゃない?」
「……トイレ、行ってる」
「そ、そうですか」
肩までの黒髪を撫でながら喋る彼女の声は震えていた。
「あの、……瀬名くん、だよね? いつも比永くんと一緒にいる」
「……ハイ」
あー、智也を好いている系女子だな。
となればこの流れはアレか。情報収集。
極力女子との関りを避けたい俺ではあるが、来られた以上終わるまでは付き合う。
会話のキャッチボールは下手くそになってしまっても、無言になることはあっても、スッと立ち去ったりはしない。必要最低限、俺なりの礼儀である。
これは長くなりそうだ……。
次の言葉を発さない女子から目線を奥へ――向けてぎょっとした。
それはスローモーションのように、コマ送りのように、全ての動きがハッキリ見えた。
教室に入ろうとしていた白坂。
こちらに振り返った白坂。
ハッとしたご様子の白坂。
短距離走者よろしくスタートダッシュ白坂。
「あのっ、あのっ、比永くんって、その……かの」
「どっしたの!」
そしてあっという間に。
俺と女子の間に、白坂。
なにこれ、さっきの再放送?
「せ、瀬名くんに用事っ?」
「えっ、あ、ううん!」
「へ、そうなの? あ、迷子的な? どこ行きたいんです?」
なんでよ。
「ううん、迷子でもないの」
いいよ、そんなマジに答えなくて。
「白坂さん、だよね?」
「えっ、うん……。え、ごめんなさい、どこかでお会いしました、っけ」
「ううん、全然。私が一方的に知ってるだけだよ」
「ほう?」
キミは自覚ないのかい。俺でさえ知っていたよ。
「ごめんなさい、呼び止めてしまって。また来ます!」
そう言って踵を返す女子に言ってやれば良かっただろうか。そろそろ戻ってくると思うよ、と。
だが俺や白坂がいる前でアイツと絡むのは無理そうな気がする。俺に声をかけたのも相当な勇気を出したようだったし。
智也、お前は本当に罪な男だな。
さてそんなことより、だ。
いい加減彼女の真意を知りたい。俺に関係ないのならいいのだけど、そう思うには無理がある。
ガシガシと頭を搔いて白坂に「あ、のさ」と声をかけた。
すると、
「えっ! なになに!?」
白坂はグンッと顔を上げて前のめりになった。ひぇ。
「……ちょ、近い」
「ハッ、ごめんよっ!」
――――――――
お読みいただきありがとうございます。
明日でひと月となるので更新は明日にしようと思っていたんですが、感謝溢れて前倒し更新です。
なかむら、すぐ調子のるから。。作品フォロー増えてる!嬉しい!書くぞぉ!評価増えてる!嬉しい!更新ポチィ!てやりがち。
たくさんの作品フォローと☆評価、ありがとうございます。
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