第6話:旧クラスメイト
***
読みましたも書かず返却したノート。ちらりと目線が向けられたものの無言だった。
キャンキャン言われないのはホッとしたが、何を考えているのかサッパリだ。
……いや、元々何考えてんだかサッパリではあるのだけど。
あの了解は何だったのか。
分かりましたは何だったのか。
謝罪は? ねぇ何でまだ交換日記寄越すの? いやもうまじで何なのか。
「ちづ、いつにも増して気だるげだねぇ。めんどくさい? 清掃」
「あ? やー、それとは別件でだるい」
いいタイミングで声をかけてくれたよ、智也。そろそろ答えの出ない疑問に脳を使うのも面倒になってきた頃だったんだ。
「しっかし、晴れたねー。終わる頃には汗やばそ」
「俺は既に暑い」
さて本日は地域清掃の日である。
二年生一同、ジャージ姿で近隣を練り歩く。落ちているごみは拾う。花壇や植え込みなんかはちょっと覗いてごみの有無を確認する。
公園や川、クラスによって向かう先は違うがやることは一緒だ。
うちのクラスはー……どこに向かうんだっけ?
「セナヒナー」
靴を履き替え玄関を出るとかつてのクラスメイトが二人いた。
セナヒナというのは俺と智也のことである。いつも一緒にいるものだからつけられたコンビ名だ。
「やっぱお前らは一緒にいんのね」
「爽やかイケメンと根暗が親友だもんなぁ、最初はちょっとびっくりしたけど。なんかお前らはそうじゃないとって感じだわ、今は」
説明は不要だろうが、爽やかイケメンが智也で根暗が俺だ。
あ、これは悪口ではないぞ。こいつらとの付き合いは一年だが互いに軽口を叩ける仲なのだ。
そもそも俺はそう言われることに何の感情も湧かないからな。
しかし智也は違う。
毎度「ちづは根暗じゃねぇって何回言わせんの」と噛みつき、そして毎度「実際違うってのは分かってるよ」と二人に苦笑いされる。
「比永、瀬名のこと好きすぎじゃない? 彼女できないよ、せっかくモテんのにさ」
「顔よし。成績よし。身長も高いし。一八〇あったよな? 羨ましい」
「好きな人もいないのに彼女なんかできるわけないでしょ」
「これだもんなー。俺には理解できねー」
「いや、この真面目な性格もさぁイケメンはポイント高いのよ。俺らみたいな非モテはつまんないって言われちゃうけど~」
智也は整った見た目だけでなく人当たりのいい奴で、まぁモテる。
ほら、今も。
コイツは気付いていないがちらちら俺のちょい上らへんを見ている女子がいる。全く罪な男である。
昔は俺の方が身長高かったんだけどな。
中学からグングン伸びてあっという間に抜かれてしまった。今では五センチ以上差がある。
そこは地味に悔しい。
「なんでそんな鼻シュッてして生まれたんかな、その高さ出てくる時絶対折れるじゃん」
「あーもーうるさいよ、自分のクラス戻れって」
「ハイハイ、戻りまーす」
「またな、セナヒナ」
強引に話をぶった切って智也は息を吐く。
苦手だもんな、自分が話題の中心になるの。
だがどうやらお前のターンはまだ続きそうだぞ。
「あーっ、比永くんっ!」
明るめの茶髪をゆるく巻いた女子が一人、流れに逆らいこちらへ向かってきている。
「……知り合い?」
「去年同じクラスだったじゃん」
「へぇ。じゃ俺先行ってるわ」
「待て待て待て」
逃げ出そうとするも智也の手は俺の腕をグッと掴んで、その間に目の前まで詰められてしまった。胸元まである髪をふぁさっと後ろへはらってニッコニコ智也を見ている。
くそ、智也め。さっきお前がいじられてる時笑ってたからか。
「へぇー、二人まだつるんでんの?」
「なになにー? 友達?」
「そっ。比永くん! こっちは元同クラの瀬名」
うわ最悪。似たような頭の色したメンズまできましたけども。もうこれ絶対騒がしくなるやつ。
てかこの人友達って言った?
基本的に誰とでもある程度親しくなれる智也だがこんな女友達がいるとは知らなんだ。
「この二人は友達なん? そっちの子どよんとしてっけど」
「瀬名さぁもう少し顔あげなよ。下ばっか見てさぁ感じ悪い」
「マァマァ、そう言うなって。陰キャは陰キャのやり方あんだよ。陰キャが前向いてたら調子のっててムカつくだろ」
何て言われ方だ、と思うか?
否、どうだっていい。
他人からどう見られようと、どう言われようと構わないのだ。
俺自身が乱されなければお好きにどうぞ。
だが俺だって地面を見ていたいわけじゃない。でも距離が。アナタの距離が近いのよ。ひぇ、顔覗き込んできた。なんで。
もう陰キャでも何でもいいから早くどっか行ってくれよ。
何で俺の前に立つの、お目当ては智也だろ。智也の前行け、よ……。
ズラズラと脳内に並ぶ言葉はどれも口には出せないけれど、俺の腕を掴んでいた智也の手に力が込められたことに気付いて顔をそろりと上げる。
垂れ目が鋭くなっていた。いかん。
「とも……」
「賑やかだねぇ!」
思わずかけた声は背後から飛んできた声にかき消された。
振り返らずとも分かる声の主は、
「おーっ、白坂!」
だ。
後ろから現れた白坂は俺と女子の間に割り込んできた。ひぇ更に近い。
だけども表情はこちらになく、俺の目に映る白坂は高い位置で作られた大きなお団子。
ぽよぽよ動く毛の塊はちょっと面白くて思わず凝視してしまった。
「え、アンタ白坂さんと友達なの?」
「そーそー、去年同じクラスだったんだよなー。元気ー? 今度また遊ぼうぜ」
「アタシも行きたい!」
さすがは人気者。この女子はキミとお近づきになりたいようだ。さぁ早くどっか別のところで盛り上がってくれ。
なに、ごみ拾いは心配するな。俺がキミの分まで働こう。だからはよ。
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