第7話:組んではいけない二人
なんて、俺の願いなど届くわけがない。
だけども、それならば。
せめて歩いてくれないか、皆の衆。
俺の前に立っている白坂よ、せめてちょっと横にズレて喋ればいいのでは。
智也も。せめて俺の腕を離してくれ。
皆、せめて、せめてさぁ。
「ごめん、あたし陰キャとは遊びたくないのー」
「ん? あー、違う違う。この陰キャは俺らのツレじゃねぇから」
白坂の言葉に男子は俺をチラ見して笑う。
なるほど? ははーん、返事を書かなかったことにご立腹なのか。
ということはまじで交換日記終了なのでは。
まさかここでそんなご褒美くるとは。あざっす。
口角があがって団子から隣へ視線を移した。
ニヤけてしまった俺と目が合った智也は小さく首を傾げる。分からんよな、悪い。
「比永クンだっけ? 四人で遊んじゃう?」
「きゃーっ、それいい!」
ご機嫌なのは俺だけではない。こちら二人もだ。
しかし二人が盛り上がればぎゅむうう、と智也の手に力が入る。こちらは不機嫌である。
苛立ちは分かるけどそれ全部俺にきてんだよね。あいたたた。
「だからあたし陰キャとは無理だって」
「いや、だからよに……」
「大体、今度またってなに? 遊んだことないじゃん」
おや……?
「は……。いや、去年遊んだし」
「あー、もしかしてクラスのみんなで遊んだ時? いたんだ? ごめん、覚えてない」
「ま、まぁ、あん時いっぱい人いたもんなっ」
「てかさぁ勝手に友達とかって紹介? すんのやめてもらっていいかな。ただのクラスメイトだよね? あ、元?」
「……」
「あははっダサっ。はっずかしー。ただのクラスメイト言われてんじゃん」
さて。この状況でこんなことを言えるこの女子は只者ではないと思う。空気読めないとかそんなレベルじゃないだろう。
しかし、その言葉は多分ブーメランだぞ。女子を見る智也が小さく漏らした息とあがった口角が意味するものは「オマエモナー」だろうからな。
道理でいつも隣にいる俺が知らないわけだよ。
「てかそんなんはどうでもよくってね、あたしが言いたいのはひとつだけー」
すっかり傍観者だった俺に、ビシッと白坂の親指が向けられた。相変わらずこっちを見ないが、この指は俺に向けられているよね? 一応自分の後ろを振り返ってみる。誰もいなかった。
え、え、やだ。とてもやだ。
「さっきからこの人のこと陰キャ陰キャうるさいけど、陰キャはそっちだよね」
ちょっと待ってくれる?
俺をこの会話に巻き込むつもりか、コイツ。
「……はぁ? 誰がだよ」
「だからそっちっつってんじゃん。陰湿キャラ、じめっとしてるもん。カビそう」
「陰キャってのはコイツみたいなの言うんだよ!」
もしかして俺が陰キャ言われてるの聞いて飛び込んできたの? この人。
勘弁してくれ。こんな展開になったらせっかく我慢が続いていた――
「ちづは陰キャじゃねぇんだけど」
ほら。智也が。
「黙って聞いてりゃずっとうるさいんだよ。コイツの何を知ってそんなこと言ってんの?」
「瀬名くんのどこが陰キャなわけ」
「そうだよ、ちづは寧ろ明るいから」
「え、比永くんもっと詳しく。あ、後ででいいよ」
「うん」
イヤァ! なんか今変なやり取りした!
「おとなしけりゃ陰キャか?」
「下向いてたら陰キャなの?」
「しつこいんだよ。覚えたてかって」
「あー、覚えると使いたいよね。それは分かるー」
おいおい、二人ぽかんとなっちゃってるぞ。
もういいだろ、だってぽかんだもの。
俺は陰キャという言葉に抵抗はない。
根暗・無気力・影が薄い……と、俺の評価は大体こんな感じで、それでいいのだ。
寧ろ好都合なんだよ。
そういう男に構う女子なんてそうはいないだろ。
白坂がちょっとおかしいだけで本来なら空気となっているはずなんだ。「あぁ、瀬名くんっていたねぇ」的な存在でいい。
いや、「いたっけ?」でも可!
苦手ではあるが邪険にするのは違う。
だから関わってくれなければ誰も不快な思いなどせずに済むのだ。
勿論分かってるさ、それは俺の考えで他人は違うことくらい。
智也らがその言葉に侮蔑を感じ取っているのだろうということも、故に今噛みついていることも。ちゃんと分かってる。
智也のことを好き勝手言う奴がいれば俺だって黙っていられるか分からないしな。
俺を思ってくれていることも嬉しいよ。
だけどもだけども。
「ちづの方がカラッとしてて陽気だわ」
「比永くんよく言った! 陽気な一面についても後で教えてくれる?」
「いいよ」
これ以上野放しにしてたまるか!
智也に掴まれていた腕にぐっと力を入れれば目が合った。「もう、そろそろさ」そう切り出せば、全員の視線が俺に向けられる。
その中には女子二人も勿論いて、その事実が喉の奥をきゅうきゅうと締め付けるから細く高い声になってしまった。
「俺ら完全に置いていかれてる。そっちの人たちも早く追いかけた方がいい、っスよ」
だが終わらせなければ。
俺ら以外の生徒はもう門の向こう側。ぽつんと取り残されて喧嘩が始まるとか、まじで嫌すぎる。
加えて、白坂の好奇心。俺はとてもじゃないが流せないぞ。だってコイツちょっとアレだから。多分ノリとかじゃない、マジだもん。
もうこれ以上俺の領域に入ってこないでくれ。
「チッ」
男に舌打ちされた。だがいい。
行こう、と背を向けて心なしか足早に進みだした二人に白坂が声をかける。
「あっお二人さーん! ごみ拾い! ちゃんとしようね、お互いね!」
「……」
「バイバーイ」
お手々振ってんじゃねぇ。
俺らも行くんだよ、ここでお喋りとかしねぇからな。
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